「与えられた時間と予算の範囲内で、私たちは自分の好きな旅先を選ぶように、好きな本を選んで読みさえすればよい。」訳者あとがきのこの一節は、稀代の古書愛好家二人による対談の本質を示しているように思える。
対談というのは、面白いものだ。頭の中にあったもの、世に顕れている事実を論理的に構築し整理した文章とは異なり、ある種の放縦なエネルギーを持っている。
「紙の書物はなくなるのか?」という問いについては、早々に「なくならない」という結論が提示される。一方で「なくなってしまった」書籍、焚書や単なる火災、時の洗礼により忘れられてしまったものへの言及もある。
忘却というプロセスが文化を産む、しからば忘却というフィルタリングが作用しないインターネット時代において文化はどうなるのだろうか…という問いには考えさせられた。
辞書と見紛うばかりの重厚な佇まい、老練な愛書家による対談という端書きから想像される骨太な内容。敬遠する理由には事欠かない。そもそも本人たちが「本は無理して読むものではない」というようなことを言っている。しかし、だからこそ、本書を手にとってみる価値はある。
老練な愛書家のグルーヴに酔いしれ、あらためて読書の海原へと漕ぎ出す力を貰えるような気がするのだ。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2021年1月10日
- 読了日 : 2021年1月10日
- 本棚登録日 : 2021年1月10日
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