3.11――死に神に突き飛ばされる

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  • 岩波書店 (2011年11月18日発売)
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感想 : 12
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 大飯原発の再稼働の必要性を野田総理が表明した。
 原発を維持すべきか、廃止すべきかについて、マスメディアでは、安全性の確保などという現実的な側面からの報道がなされるばかりで、将来のエネルギービジョンや本質に迫るものが見えてこない。
 著者の加藤典洋は、村上春樹の作品分析についてはその右に出る者がないほどの深くて鋭い洞察を行っているが、この原発をめぐる問題についても、様々な文献や情報を読み込み、その根底に何が隠されているのかを抉りだしている。
 第二次大戦での敗戦国であるドイツやイタリアがいち早く「脱原発」を表明したのに、日本ではなぜ「脱原発」の選択について掘り下げた議論がなされないのかが、気になっていた。プルトニウム製造に関わる軍事的側面の事情があるのではないかとはうすうす感じていたが、この本を読んでその疑問が氷解した。
 原発を維持したいという意図には、「核燃料リサイクル」によりプルトニウム製造に関する技術を維持して「核技術抑止」力を持ち続けたいという軍事的戦略が隠されているというのだ。「核を持とうと思えばいつでも製造できるという技術を持つこと」が、抑止力たりうるという指摘だ。
 原発については、絶対的な安全性が確保されていないこと、廃棄物処理の方法が確立されていないことに加え、「核燃料リサイクル」の製造を手放さない限り、そこには「技術抑止」という軍事的国策が隠されていることも忘れてはならない。
 著者は、『敗戦後論』で、戦死した人々の無念の思いをどう引き受けるかを自らに課して論を展開していたが、ここでも、やはり被爆者の無念の思いと祈りを中心に据えて考察を進めていて、文芸評論家としての面目躍如たるものがある。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 評論(政治)
感想投稿日 : 2012年6月11日
読了日 : 2012年6月9日
本棚登録日 : 2012年6月11日

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