言葉の誕生を科学する (河出ブックス)

  • 河出書房新社 (2011年4月13日発売)
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言葉の起源を探索しているうちに、いつしか意識や時間の発生にまで及ぶ対談。言語の起源は「歌」であるという仮説を提唱する科学者岡ノ谷一夫氏を作家の小川洋子が訪ねる。
 岡ノ谷氏によれば、ジュウシマツのさえずりを分析すると家族や仲間から分節化した歌を学び、さらには分節化したフレーズを組み合わせていることまで分かるという。また、ハダカデバネズミという地下で社会生活を営むネズミも歌を歌うという。こうして、人間の言葉も歌から生まれたのではないかとする「原語の歌起源説」が提唱される。種を保存するための求愛から始まった歌がコミュニケーションの手段として高度化していったことは十分に考えられる。
 この対談は、聞き手の小川洋子の鋭い質問とアイデアが刺激となって、スリリングな展開を見せ、深い世界へと降りて行く。人が成長していく過程で、自分だけではなくて、他者にも内的過程(意識)があることを想定できるという「心の理論」が披歴された後、他者の行動に感応するミラーニューロンをヒントにして、他人の意識がこのミラーニューロンを介して自分に映し出される時に自己意識が生まれるのではないかという「自己意識の他者起源説」も提出される。また、言葉を持つことで「時間」という概念も誕生したのではないかという哲学的な世界へと誘ってくれる。この「言葉」と「時間」の相互関係については、動詞の活用形の中に時間の概念が包摂されていることを精神医学者の中井久夫が『私の日本語雑記』の中で述べているように、言葉と時間は糾える縄の関係にあるという方が正確なように思われる。
 最後に小川洋子が「人間が言葉を獲得した、と人間が主語になってきましたが、むしろ言葉が人間を作ったと言っても許されるのではないか、という気さえしてきました」と語っているが、この対談がお互いを刺激しあう創造的なものとなっていることを象徴していて印象的である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 対談(科学)
感想投稿日 : 2012年1月29日
読了日 : 2012年1月27日
本棚登録日 : 2012年1月29日

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