「クズとワルしか出てこない 最低にして最高」の魅力溢れるパワーワードに惹かれ帯買いした本書....の思い出は中々古い記憶だ。長らく本棚に鎮座させてしまい、最早復活の儀を待つラスボスみたいになっていた。
目覚めの時は突然で、勇者が剣を引き抜いたその時...とかでは無く、最近皆様の本棚でよく見掛ける様になった事で興味惹かれたという至極当然たる目覚めだ。ありがとうございます(*^^*)
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
ケースワーカーの佐々木守の日常から物語は始まる。生気は無いがしっかりと受給者に向き合う姿勢の守と、その視点から見える不正受給者のクズワル具合に彼に対して秒で同情心が沸き立った。うーん、本当に面白いので内容をあまり語りたくない。なので作品説明以上の事は極力語らずに....出来るだろうか。
(´ρ`*)コホン
守の同僚〈高野洋司〉の悪事から負の連鎖がとぐろを巻き始める。被害者の〈林野愛美〉、高野を食い物にし東京進出を目論む地方ヤクザ 〈金本竜也〉 金本のパシリ不正受給者の〈山田吉男〉...に留まらず、少なくない登場人物達はもれなく負の連鎖に呑み込まれ、後の大き過ぎる悲劇として順調に成長していく。
語り手が逐一切り替わるスピーディな作品なのだが、人物描写がとても丁寧だった。誰がどんなワルかしっかり認識して読み進める事が出来る。種族のレパートリーが豊富過ぎて最早「クズワル大辞典」だ。
他人を食い物と認識すると人はここまで残酷になれるものなのかと恐ろしくなるが、如何せんこの作品に「良い奴」は存在しない。クズ×ワルの〈混ぜるな危険〉をとくと楽しんだろう くらいの俗悪的思考で向き合う方が精神は安定するかと思う。
性的暴行 麻薬 暴力 万引き....思いつく限りの「悪い事」が次々と起こるのだが、発端となるのは「生活保護不正受給」となる。勿論、不正受給は許せない。しかし、それを斡旋する地方ヤクザ金本のセリフが、人の羞恥を的確に抉り出しているように感じた。
『世間は生活保護を貰ってる奴らは楽して金を得てずるいではなく、一生懸命働いてるのに生活保護世帯よりも安い賃金しか貰えない社会はおかしいと考えるべきだ』
....良い事言っている風だが、背景はマッチしていない。その世間の視野の狭さを嘲笑い、15時のもぐもぐタイムにしている様な人間の言葉だ。
しかし、「お言葉ですが」と返す言葉は見付からなかった。もしかしたら被害者は自ら「食べ頃」になっているのやもしれない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
常にシリアスな雰囲気で眉間のシワは刻まれる一方だ。しかし終盤は打って変わってのコメディタイム。これは決して非難している訳ではなく、リアルとどこかお茶目を感じる非現実さのバランスがとても面白い。野次馬根性よろしく大いに喜劇を楽しんでいた(注︰暗黒書物愛好家視点)
是非、白石和彌監督にエグさのテコ入れをして映像化してもらいたい。
著者の後書きにもチャールズ・チャップリンの名言を使ってこう記されている。
「『人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ。』これは、辛い事も思い返せば笑い話といった意味合いだろう。しかし、近くと遠くを自分と他人に置きかえられるのではないか。」
中々辛辣な言葉だが、自分以外の人間からしたら自分は他人だ。いつでも喜劇の対象となる。そしてそれは自分からしたら悲劇なのだ。
.....私は皆でエレクトリカルパレードが良い。
私は食べ頃になりたくない。
暗黒フィクションはフィクションのままで。悲しい連鎖は決して現実に連れ出してはならない。暗黒フィクションは防波堤だ、未来を学べる。悪夢を遮る砦だと私は常々思う。
- 感想投稿日 : 2022年9月15日
- 読了日 : 2022年9月15日
- 本棚登録日 : 2022年9月15日
みんなの感想をみる