納棺夫日記 増補改訂版 (文春文庫 あ 28-1)

著者 :
  • 文藝春秋 (1996年7月10日発売)
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本棚登録 : 1254
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死について深く考えさせられる名著。現代は生きることに重きを置かれすぎている。医者の役割は延命措置である。科学の進歩の多くは医療革新に関心が持たれている。「生」に関心を持つことはいいが、その反動で「死」が無視されていないだろうか?
死は、生者の視点からでは解決できないと著者は言う。生と死という別々の概念を超えた「生死」の境地でいることでこそ、死を徹底的に見つめて生を輝かせる。そのような境地に達した人間には、光が見える。釈迦や親鸞や、さらには死を悟ってなお安らかに死を受け入れることのできた人の多くがそのような目には見えない光を見ている。
光を見た人間は、いのちの連続性への奇跡の念と感謝の思いが生まれる。それが、正岡子規の「悟りとは、平気で死ぬことではなくいか何時でも平気で生きることである」という境地につながるのだと思う。
本書はそれだけでなく、詩の魅力を教えてもらった。金子みすゞ・宮沢賢治の詩などを引用して彼らの死生観と自身の経験とを結びつける著者の感性の豊かさには脱帽した。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2017年2月25日
読了日 : 2017年2月25日
本棚登録日 : 2017年2月25日

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