新編 宮沢賢治詩集 (新潮文庫)

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レビュー : 89
著者 :
master-Q-tonさん 詩集   読み終わった 

「わたくしといふ現象は

仮定された有機交流電燈の

ひとつの青い照明です

(あらゆる透明な幽霊の複合体)

風景やみんなといつしよに

せはしくせはしく明滅しながら

いかにもたしかにともりつづける

因果交流電燈の

ひとつの青い照明です

(ひかりはたもち その電燈は失はれ)

これらは二十二箇月の

過去とかんずる方角から

紙と鉱質インクをつらね

(すべてわたくしと明滅し
 みんなが同時に感ずるもの)

ここまでたもちつゞけられた

かげとひかりのひとくさりづつ

そのとほりの心象スケツチです
(中略)」

(『春と修羅』 「序」より)


 あまりにも、卓越した、この「序文」。天性のものなのか、あらゆる「苦闘」の果てにたどりついたものなのか、賢治の、「『本質』を見極める『まなざし」には、思わず絶句し、嘆息するほかない。


 このひとの、様々な経験、社会・文化・宗教・自然、人とのかかわり、ありとあらゆるものから吸収し得る、おおらかで鋭い感性、博学多才ぶり、それを独自の表現で、芸術作品や、具体的な行動へと昇華していく「ちから」。


そうでありながら、


「四月の気層のひかりの底を

唾(つばき)し

はぎしりゆききする

おれはひとりの修羅なのだ」

(「春と修羅  (mental sketch modified)」より)

 
 そう、自分自身が「一己の『修羅』」であることを、厳しく、苦々しく、諦念を以て、見つめることを、やめない。


 それでいて、農村のくらしや災害の厳しさを、我が身をもって知りながら、郷里への素朴な愛着と、深く優しいまなざしが、その根底には脈打ち続ける。


 賢治の「詩(心象スケッチ)」は、「このひとは、こうである」という「決めつけ」をしようとした瞬間から、するりと、抜け出していってしまう、「賢治、そのもの」に感じられる。ちょうど、「習作」の、不思議な文章で書かれた、「とらよとすればその手からことりは空へとんでいく」の「句」のように。


 圧巻なのは、あまりにも有名な、妹トシとの別れをえがいた、「無声慟哭」の、「永訣の朝」等、一連の「詩」。これは、レビュー不可能なので、ぜひ、ご一読をお勧めしたい。(一説には、このことがあってから、賢治は、その後「銀河鉄道の夜」のモチーフとなる、樺太への汽車の旅へ、一人旅立ったとされる。)




「おまへがたべるこのふたわんのゆきに

わたくしはいまこころからいのる

どうかこれが天上のアイスクリームになつて

おまへとみんなとに聖い資糧をもたらすやうに

わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ」

(「永訣の朝」より)


 

レビュー投稿日
2012年6月23日
読了日
-
本棚登録日
2011年7月30日
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