第1章「同化する戦場」の途中までは、素晴らしい作品に出会えたという予感を共にしながら読み進められ、かなりポジティブな気持ちで本作と相対できていました。一番目を引いたのは記されている言葉の美しさで、語彙の豊富さとそれらの響きの美しさは、今までに読んだ小説の中でも群を抜いている印象がありました。内容としても1作品として高いクオリティを期待できる要素が散りばめられており、後の展開が楽しみでなりませんでした。
しかしその序盤以降は、本作中の全ての設定は作者のイデオロギー主張のためのもののような気がしてしまい、興ざめの極み以外の何物でもない駄作に成り下がってしまいました。
ほぼ万人にとっての憎まれ役であり、胡散臭さ満載であるカルトを原発関係者に結びつけ、それをベースにした話展開。その時点で作者側のご都合主義感があってきな臭い感があったのですが、極めつけは主人公がカルトの教祖を弓で狙撃しようとするところ。
自分の主義主張のためなら暴力も辞さない。それを悪びれることもなく本作は描いています。
その様は全く過激派のそれで、テロリストの主張そのもの。こんなもののが日本を代表する作家の作品と言われたら、日本という国が非常に低俗でくだらない国のように思えてくるほど、残念な気持ちになります。
輪をかけて許しがたいのは、東日本大震災を主人公の同情を誘うための道具として利用されてる(としか思えなかった)点。
はっきり言ってしまうと、本作は東日本大震災がなくても話としては成立します。けれどそれを絡めているのは、被災者に寄り添う主人公を描くことで、悪の原発関係者との対比としての主人公側の正しさを際立たせようという作為があるのではと思ってしまうのです。
主人公が子供達の意向を聞くことなく遍路に連れ回そうとするエピローグを読むと、いかにも自己主張のために自分勝手に周りを巻き込んで迷惑をかけまくる活動家然とした主義を感じてしまいます。私から見ればそのようにしか受け取れられない自分勝手な主義主張が全面ににじみ出ていることが、本作を受け入れられなかった要因なのではと考えています。
多数の名のある作品を記している作家さんですが、今後二度とそれを手に取ることはないと思います。
- 感想投稿日 : 2017年7月22日
- 読了日 : 2017年3月19日
- 本棚登録日 : 2017年3月20日
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