フランス・ルネサンスの人々 (岩波文庫)

著者 :
  • 岩波書店 (1992年1月16日発売)
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感想 : 10
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20110107
大江健三郎氏の先生の本。
たまたま金子晴勇『宗教改革の精神』(講談社学術文庫)という本を以前に古本屋で手に入れて読んでいた。その本で扱われる中心人物としてエラスムスとルターがあり、世界史の時間にしか名前をきいたことのなかったそのエラスムスの話を友人としたときに、彼がこの本『フランス・ルネサンスの人々』を紹介してくれた。彼から著者の名前を聞いて、ああそれは大江健三郎氏の先生だ、ぜひ読みたい。読みたいなら貸してあげるよ、ということで、その日以来、少しずつ、一人一章の人物伝を読みはじめた。
この本との個人的な出会いをレビューに書いても仕方ないけれども、友人も含めたぼくの尊敬する人物のつながりのうちにこの書物を手に取ることになったことの意味は、ぼくの中で大きい。

本書中に何回も引かれる「それはキリストと何の関係があるのか」ということば。
このことばは、静かで、小さな、諭すような声。

宗教改革のダイナミックな面にだけ注目するなら、「それはキリストと何の関係があるのか」ということばは声を大にした叫びに思えるかもしれないが、著者がぼくに伝えてくれたのは、新教と旧教の過激さを増す対立の中で、また新教の内部での粛正のうちに聞こえた、そして多くは無視された忍耐強い諭しである。「それはキリストと何の関係があるのか」。

最終章で取り上げられる人物セバスチャン・カステリヨンの言葉の引用が心に沁みる。

「どこかの誰かが、これから何かを学びとり、私が真実を述べたということを認めてくれるだろうと念願いたします。そうなった場合、その人が、たとえ一人きりでありましょうとも、私が無駄骨を折らなかったということになりましょう。」

ぼくもその「どこかの誰か」かもしれない。たとえぼくのような末端の、とくに何の力も持たない者でありましょうとも。

小さい声であろうと、実をすぐには結べなかろうと、「それはキリストと何の関係があるのか」という反省を促すことばが確かに伝えられてきたことは尊いと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2011年1月8日
読了日 : 2011年1月8日
本棚登録日 : 2011年1月7日

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