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この国の名は、アラルスタン。かつて、アラル海とよばれた場所だ。
移住してきた多民族による新興国。油田とイスラム系反政府組織を内部に抱え、隣接する国々とその向こうの大国とが利権を争う小国。
独立記念日に大統領が演説中に暗殺され、議会がまるごと逃げ出した爆発物みたいなその国で、大統領直下の特殊教育機関“後宮《ハレム》”に属する少女たちは、自分たちの場所を守るために国家の運営に乗り出す。
……なにこのあらすじ(笑
この物語はフィクションです、って何処へ向けてるか解らない注意書きとはまるで違う、これぞフィクションだ! と胸を張っているかのような強度と速度。
立ち向かうものは大き過ぎて、根深過ぎて、
それでいて、いやそれだからこそ?
少女たちの物語は、軽やかに進む。
読み終わって、この物語が内包する(というか、この物語が成立するための要素であるところの)中央アジア情勢、議会政治の堕落、国家・民族間の確執、大人と子供…などなど、そのどれに方が付くわけでもないし、何か大いなる教訓が得られるわけでもない。
それでも、前を向いて考えて歩いてりゃ、悪いことばっかりじゃねぇし、悪い奴ばかりでもないんだよなぁ、という、
本当に恥ずかしいんだけど、そんな感想がいちばん大きい。
あるいは民族的、宗教的問題の中で、ナツキという日本人はある種浮いた存在に見えかねないのだけれど、
個人的にはそれもプラスの要素に感じられました。
ナツキみたいな日本人こそが、本当に旅人になれるのかもしれない。
ちょっと言い過ぎか? まぁ影響力無いからいいだろ←
そもそもナツキも日本育ちってわけじゃないしね…なんていうか、ニュートラルな存在?
国籍や民族で性格が定まるとは思わないけれど、
民族的な遺恨や禍根、してきたこと、されたこと。
そこから離れて、それを深く理解しながら、けれど問題は個人のものとして捉えられるニュートラルさ、というか。
そこにいる、ということを受け容れて、そこにあるものを繋いでいける強さ、というか。
何かが欠けている、から、そこを埋めることができるんじゃないか。
そんな、希望というにはあまりにも手前勝手な、
でも輝いて見える、何かが、あります。
あらゆるひとに、読んでほしい一冊。☆4.6
- 感想投稿日 : 2020年12月30日
- 読了日 : 2020年12月30日
- 本棚登録日 : 2020年12月30日
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