- 短篇ベストコレクション: 現代の小説2015 (徳間文庫 に 15-15)
- 日本文藝家協会
- 徳間書店 / 2015年6月5日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
2作品しか読んでないので星3つですが、2作品のみで判定するなら4つ星。
教室ははときに、過ぎ去っていった先生方のおすすめ本が捨て置かれ、地層のような、貝塚の遺跡のような、なんとも表現し難い空間が存在していたりするのですが……
一掃すべく回収作業に取り掛かり、ふと手にしたこの本に「山田宗樹」の文字が。
しかもタイトルは「代体」。あれ?代体って短編だったっけ?しっかりめの単行本読んだような……
と本を開いたところまでは覚えているのですが、ハッと気づくと読み終わってしまっていました。
恐るべし!山田宗樹!そして短編!
結果、単行本の代体と世界設定は同じで、別のストーリー。たまにあるパターンですね。
しかしこんなに短いのにしっかり読ませる!きっちり落とす!大好き山田宗樹。
5分シリーズなんかのショートショートが流行り始めて久しい今日この頃。
クオリティが低いのは短いんだし仕方ない…とぼやきながら、ショートショートしか読めない子たちが群がる様を諦観の念で眺める日々でしたが……いや!やっぱ短くともクオリティ高いものを読もうやっ!!と思わされた短編「代体」。
今年のオリエンテーションは星新一の読み語りと一緒に、この短編「代体」紹介してみました。設定がキャッチーなので軽い奪い合いになる嬉しい光景も見られてなにより。
教室の貝塚ならぬ本塚に、そっと手を合わせましたとさ。
他の方がレビューで評価されていた、中島たい子「いらない人間」も読んでみましたが、確かに面白かったです。
読めそうで読みきれなかったオチと、そっと添えられし、お漬物のような下ネタ。良き。
2024年4月16日
- 子どもも大人も今日から使いたくなる ことわざえほん
- 主婦と生活社
- 主婦と生活社 / 2023年12月8日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
「えほん」のことばどおり、ボリュームとしてはかなりひかえめ。よくある「ことわざずかん」的なものと比べると、取り上げられていることわざの数も少ないです。
が、とにかく感じがイイ。薄さ・サイズ感・本のしなり・イラストの脱力感・各ことわざの解説構成など。
語彙学習のためのものですが、本全体の雰囲気がおもしろくて、読む気を起させる1冊だと思います。
同シリーズの四字熟語もイイ。
2024年3月6日
2024年3月12日
- 別冊 こんなにすごい!ふしぎな動物超図鑑 (ニュートンムック)
- ニュートンプレス
- ニュートンプレス / 2023年6月12日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
この手の本にレビューを書いたことはないですが、感動したので書いちゃいます。
感動したのは「完全ルビ付き」ってところ!!
内容ちゃうんかいって話ですけど、この内容、このレベルで総ルビってなかなかないですよね。
4類、特に虫とか動物が大好きな小学生男子は多いと思うんですが、中には低中学年でも大人顔負けの知識量と好奇心に満ち満ちている子がちらほらいるんですよね。
そういう子たちにとって、総ルビの「生き物図鑑」系ってレベルが低すぎて物足りない。知っていることしか書いてない。発見がない。
かといって中高生向け、大人向けの専門書は読めない漢字に埋め尽くされているという。
虫は好きだが漢字は好かん!という子もまた多いものでして。
このシリーズは全部ルビ付きなんでしょうか。
小さな動物博士たちがこれ見つけたら興奮して鼻血出すかもしれないので、新着コーナーに箱ティッシュ用意しときます。
2024年1月18日
- 苺飴には毒がある (一般書)
- 砂村かいり
- ポプラ社 / 2023年11月15日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
このじっとりとした、粘度すら感じる湿度に既視感がありすぎて苦々しくも楽しく読めました。
「れいちゃん……8割方あの子だな……」って小中高時代を思い起こしながら読了したんですが、レビューを見ていると、みんな「れいちゃん」と共に過ごした時代があるみたいでなんだか安心しました。
でもこの物語の苦味の核心は、自分の中にもうっすら存在していた「れいちゃん」じゃないかと。
そこを自認させられて、そこにスポットを当てられて、ジリジリ焦げる味と匂いを感じている気もするっていう。
今も昔も、大体の女の子の中に寿美子とれいちゃんは同居してますよね。濃度と比率の問題で。
たまに「れいちゃん100%」みたいな人と遭遇すると、なぜか自分の中の寿美子濃度が上がっちゃったりもして。
自分の中の栞成分が未だにファンタの果汁くらいなので、目指せDoleでいきたいと思います。
ただ、栞濃度上げるには必然的にビジュの問題も出てくると思うんですよね……。
2024年2月17日
- おにのしょうがっこう
- 山田マチ
- あかね書房 / 2023年1月20日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
2023年10月17日
- 本の背骨が最後に残る (文芸書・小説)
- 斜線堂有紀
- 光文社 / 2023年9月21日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
2023年8月21日
- しがまっこ溶けた 詩人桜井哲夫との歳月
- 金正美
- NHK出版 / 2002年7月26日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
主食はフィクションでして、手記やルポといったノンフィクションは必要に駆られないと手を伸ばしません。
今回もおすすめされて読み始めたのですが、感涙よりも己の無知に愕然とする衝撃の方が大きくて。
人権や道徳の指定で、かき集めた資料の中にハンセン病を取り扱ったものもありましたが、自分でしっかり掘り下げることもなく、表層的なことしか把握していませんでした。
この本も「ハンセン病について」書かれているわけではなく、あくまで「ハンセン病の詩人の生き様」を描く過程でハンセン病と歴史に触れているにすぎません。
この1冊を読んだからといって核心に迫れたとは言えないものの、「知ってほしい」「知るべき」という周知の一助、入り口にしてほしい作者の想いに触れられたと感じます。
やはりこの本の核は、桜井哲夫という詩人の人間の大きさと才能と感受性。
読めない書けない。見える眼がないから。指はもう残っていないから。
作者をして「機能を失いすぎている」「自分の姿形と比べて、同じ人間だとは思えなかった」と言わしめたその人は、ただただ頭の中でのみ詩の創作を行います。
良い詩を生み出す工程として、育ち、経験、境遇、様々な要素があるのでしょうが、やはりこればっかり感受性と才能によるものが大きいと思います。
文筆活動はいろいろあれど、詩歌って才能がないと他人には響かない……。勉強をして数をこなしても、形は整えどなぜか響かない。刺さらない。
だから実際のところ、ご本人も言っているように「見える」こと「書けないこと」は大した障壁ではないのかもしれない。
ただ、これだけ柔軟であると同時に、多角的な視点を持ち鋭い感受性を持つひとが、「らい」という圧倒的なフィルターを通して世界を見たときに、どうして心が壊れないのだろうかと。
理不尽なこの世の不条理を、悪意を、絶望を体に心に刻みつけられてなお、その詩から生まれるのは怒りや呪いではなくて、凍りついた哀しみと嘆きと希望と愛。
この人間性とかわいらしいキャラクター。
「ハンセン病患者が」ではなくて、ハンセン病患者という側面を持った桜井哲夫という詩人の、長峰利造というひとの60年物のしがまっこが溶け、新たなスタートを切ることができた。
その喜びに共感しつつも、めでたしめでたしでは決して終われない、終わらせてはいけない強烈な楔が、この本を通った全てのひとの胸に間違いなく打ち込まれる1冊でした。
2023年7月25日
2023年7月4日
2023年8月21日
- 愛されてんだと自覚しな
- 河野裕
- 文藝春秋 / 2023年5月25日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
2023年11月13日
- おじいちゃんの ねがいごと
- パトリシア・マクマラン
- 光村教育図書 / 2021年9月30日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
仕事の流れで内容把握のために走り読むつもりで開きましたが、気づけば落涙でした。
鳥を愛するおじいさんと、孫であり語り手の「わたし」。そして「わたし」の弟で言葉の少ないミロをはじめとした、おじいさんをとりまく人々と雄大な自然。
孫たちとおじいさんのやりとりがメインですが、教訓めいた話でもないし、泣かせてやるぜ!って腕ぶん回してる感もまったくない、ひたすらに静かで淡々としたストーリー。
なのに、柔らかであったかい愛と、避けられない喪失の中にある希望が、涙腺総攻撃です。「慈しむ」とはこの世界である。
このシンプルさで、この読み心地をくれる作者はもちろんすごいのですが、その味わいを足し引き無しにそのまま届けてくれる翻訳も偉大。
輪郭をはっきりさせずに空気感だけを深い彩りで伝えてくれるこの絵も、なんだか自分の記憶にこの場面があったように錯覚させる臨場感があります。
涙をふきふき、読後にもういちど表紙を見ると、孫たちの目線に初見では理解しえない深い意味が生まれて、拭いた涙がカムバックです。
2023年3月15日
- 銀色の国 (創元推理文庫)
- 逸木裕
- 東京創元社 / 2023年2月20日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
2024年4月1日
- ケンスケの王国 (評論社の児童図書館・文学の部屋)
- マイケル・モーパーゴ
- 評論社 / 2002年9月1日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
2023年7月27日
- 二分間の冒険 (偕成社の創作)
- 岡田淳
- 偕成社 / -
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
昭和版異世界転生ものの匂いを醸しつつ、チラ見せのチート感を見事に裏切る異次元成長冒険譚。
有名すぎるほどに有名な児童文学であり、
「表紙気持ち悪い」でお馴染みのこちら。
なんだかんだと読む機会を逸し続け幾星霜。
「きかせたがりやの魔女」なんかと比べると、やはりいろいろレトロ。少年少女の名前が昭和でエモみ100%です。
やっぱり狙いの読者層だった時代に読んでおく(現役読書と勝手によんでいる)のがベストに楽しいんだろうなと毎回激しく後悔する岡田淳作品。
まだ灰色のガウンを羽織る歳ではないにしても、冒険の主人公として物語に飛び込んでこその世界観だよなあと強く感じます。
元教員というバックボーンゆえか、岡田さんの作品は「学校」のくくりが多く出てきますが、この作品も異世界で共闘するのは同じ学校で同じ学年の児童たち。
しかし、向こうは自分を知らないというワクワク展開。現役読書なら主人公の「不安」もワクワクに混じるんだろうか。
すごく深そうな「なぞ」と「こたえ」に、実際のところそうでもないな……なんて斜め上から言ってたら、巻末の解説で
『物語というものがもっている〈どきどき、わくわく〉する〈おもしろさ〉がかるく見られ、物語のなかの〈意味だけをぬきだすあやまった〈読みかた〉が正しいと思われる場合もありました。』
と叩き切られたのが「時間は若さ」の一文に追わされた傷の次に深手でした。
物語が魚だとしたら、つい「作者の意図」とか「社会への問題提起」みたいな「骨」を探ってしまうけど、ブチブチブチっと骨を掴み取って「これ魚!」って言っても、あんた本当の魚の味わいや美しさは見えてないだろうよ。って。
「たはーっ!」ってなりました。
出直してきます。
2022年11月16日
- ぼくたちはまだ出逢っていない (teens’ best selections 62)
- 八束澄子
- ポプラ社 / 2022年10月5日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
いじめに悩むミックスルーツの陸、そんな陸の心の拠り所である樹、母の再婚によりできた新たな「家族」に居場所を見つけられない美雨。
それぞれがそれぞれの形の傷を持つ「ぼくたち」を繋ぐのは『金継ぎ』でした。
最近でこそ、オシャレでサステナブルな趣味としてスポットが当たることも増えてきましたが、やはりまだまだ渋いイメージのある「金継ぎ」。
そこに中学生を掛け合わせるという、なかなかに特殊な角度から切り込んだ作品でしたが、伝統工芸の奥深さに爽やかさと甘酸っぱさが薫る良作だと思います。振り返れば首を違えるほど思春期が遠のいた大人には、そこに一滴の寂寥感も加わってしまうほどに「可能性」というものの眩しさも感じました。
壊れたカケラを繋ぎ、修復した傷に美を見出す日本独自の精神を、人と人、自分自身に照らし合わせる構図も、児童書としてかなり効果的な表現で、子どもたちの胸に刺さりやすそう。
金継ぎというものの存在を理解して表紙を見ると、なるほどと思わせるデザインになっていて素敵です。
何年か前に国際平和デーの式典で、国連事務総長が日本の金継ぎを引き合いに出し、世界で起こる紛争による亀裂を埋めるためにその理念を用いようと言っていました。そんな風にも表現できる伝統技巧を日本人として誇る気持ちも育ってほしい。
ルビしっかりめで、ストーリーや文章は小学校高学年からイケるかなと感じますが、実物の金継ぎ作品を見たことのない子は想像だけでは実像に結びつきづらいかも。個人持ちのタブレットで調べさせてもおもしろそうです。
天平堂も衣川さんも実在のモデルがあるようで、漆のことや後継者問題と一緒に、中学生にはその辺まで興味を派生させてほしいと思います。
2022年10月6日
- サムデイ (Sunnyside Books)
- デイヴィッド・レヴィサン
- 小峰書店 / 2022年3月22日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
2023年4月26日
- 家が呼ぶ --物件ホラー傑作選 (ちくま文庫)
- 朝宮 運河
- 筑摩書房 / 2020年6月11日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
「家」を共通テーマに、それぞれ趣の違った世界観を持つ短編集。
アンソロジーなので、あたりまえといえばあたりまえですが、作品によってかなり好き嫌いがはっきりするなあという印象。
「嫌い」なものは短編でも苦痛になるくらい合わない。しかし「好き」な作品も「短編じゃ短すぎる!もっと読みたい!」というレベルまでは達しない……という消化不良な読後感。
突き抜けたガチムチなホラー(ツボは貴志祐介)が好きなんですが、そういう方向性の作品はなかったので、あえて選ぶ「好き」は「くだんのはは」と「夜顔」。
ホラーの中でも「哀しさ」と「不思議」の要素が強い、綺麗なホラー。ちゃんと生臭い場面もあるのに日本家屋の静謐さとか、執着に近い渇仰がグロを凌駕する良いホラー。
「鬼棲」も京極夏彦らしい理屈の捏ねくり回しがホラーを凌駕していて「好き」。「人は予感するから人なのよ」なるほど。「全ての恐怖は、予感なのよ」なるほど。人形が動くかも、という予感。飛行機が墜ちるかも、という予感。いないはずの場所に人がいるかも、という予感。
しかし1番の収穫は、オムニバスとアンソロジーの違いを知る良いきっかけになったこと。なーむー。
2022年9月6日
- ばあばに えがおを とどけてあげる (評論社の児童図書館・絵本の部屋)
- コーリン・アーヴェリス
- 評論社 / 2021年9月21日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
2022年6月15日
- 海を見た日 (鈴木出版の児童文学 この地球を生きる子どもたち)
- M・G・ヘネシー
- 鈴木出版 / 2021年5月28日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
2022年10月13日
- SDGsで見る現代の戦争-知って 調べて 考える
- 学研プラス
- 学研プラス / 2021年8月26日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
過去から現在に至るまでの戦争と平和をSDGsの観点で考える、中身のギュッとつまった1冊。いやほんとに物理的にもめちゃくちゃ重い・・・。お値段もなかなかですからね。
SDGsの17の目標中の16項目に「平和と公正をすべての人に」というものがあり、これが戦争とSDGsの関係として代表的な目標であると。
でも戦争の火種になっていることって、他の目標項目とも少なからず重なっていることがあり、世界全人類が本気でSDGsに取り組めば戦争はなくなるのかもなとは感じました。
夢物語ではありますが、争いって「そういうことなのだよ」と平和学習で学ぶ児童に思い描いてもらえる説明がなされていると思います。
そしてSDGsという冠を戴いているものの、戦争・内戦の歴史という面でも充実した内容。
あくまで児童書であって広く浅くではあるのですが、図・写真・年表・概要のバランスが素晴らしくてとにかくわかりやすい。
共通して、
【 地理的把握・相関関係図・年表・「いつ、どこで、なぜ?」・「どう進み、どんな結果に・・・?」・「残された問題」】
という項目で構成されていて文章も飽きる前に終わるあっさりとしたもの。
今の子どもは、たくさんの情報の中から必要な部分を見つけるということがとにかく苦手なので、この構成は絶妙だと思います。
巻末に地域別の戦争年表なるものがあり、これが視覚的にも興味を持ちやすい。
ぶっちぎりで長引いている「カシミール紛争」の文字を見て「・・・・カレー?」ってなった自分みたいなやつでも、紛争名の横に該当ページが載っていて興味が薄れる暇なく概要へ導いてくれるという快適仕様。
年代別に紛争が整理されているのですが、2014年のクリミア危機とウクライナ東部紛争が最後の項目です。年表では2020年が最終ラインで、現在も継続している紛争が一目で確認できます。
学校図書館は予算が火の車でも選書しておきたい1冊かと。
2022年10月18日