街角の歌 (365日短歌入門シリーズ 1)

  • ふらんす堂 (2008年4月1日発売)
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本棚登録 : 28
感想 : 3
5

月別季節に合わせて、街角の風景や社会の変遷を詠んだ社会詠を中心に、近代、戦後、現在という時間軸で365人(!)の歌人の作品を紹介している。5,6行で歌人の紹介を凝縮してまとめ、歌の解釈もしていてとても贅沢な内容。まとめるのに大変な作業だったのではと驚いた。
現代口語短歌ばかり読み漁っていたので戦前の時代背景も含めた紹介はとてもためになった。

女性歌人を中心に素敵だと思った歌を抜粋

駅までのラストスパート三分で殺し文句をくれなきゃ帰る(田丸まひる、平成14年、晴れのち神様)
友達以上恋人未満。全力疾走、CMにでもなりそうな場面、この後はどのような展開になるのだろうか。駅はいろんなドラマが生まれる。くるりの『バラの花』が流れてきそう。

どちらにもほんとのことは言えないでマツモトキヨシで口紅を買う(岡崎裕美子、平成17年、発芽)
ドラッグストアの買い物が雑多で心ここにあらずな感じ、そういう時の口紅は何色を選んだんでしょう。どちらとは、恋愛対象なのか、親、教師、友達?

大きければいよいよ豊かなる気分東急ハンズの買物袋(俵万智、昭和62年、サラダ記念日)
消費欲を刺激する場所として80年代の豊かさを象徴的に詠う。

とっておきの死体隠してあるやうなサークル棟の暗き階段(石川美南、平成16 年、砂の降る教室)
日常と非日常が同居する学生時代のはかなさ、生々しさを描写しているのか。古びたサークル棟には確かに不気味さはあった。

<動く歩道>で運ばれて行く地下通路すみやかにわれら老いて明日へ(小島ゆかり、平成10年、獅子座流星群)
何でもかんでも自動化、時間の流れを人生と捉えてあっという間に行きつく先を不安にさせる。

毒入りのコーラを都市の夜に置きそのしなやかな指を思えり(谷岡亜紀、平成5年、臨界)
昭和52年港区青酸コーラ無差別殺人事件のことで、9名の犠牲者がでた。似たような事件が頻発したらしい。平成4年に時効。まさに今犯人がコーラを置く場面を想像、無敵な笑いが浮かんでぞっとする。

たはむれ合ふ街のマリアの頭上にあり十字架は静かに力帯びくる(中城ふみ子、昭和30年、花の原型)
病床から応募して短歌研究特選受賞。残された時間で歌集を発表。十字架を見つめた瞳と街の様子と自分の置かれた状況を冷静に悲哀を込めて詠ったのか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 短歌
感想投稿日 : 2022年8月24日
読了日 : 2022年8月24日
本棚登録日 : 2022年8月24日

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コメント 1件

☆ベルガモット☆さんのコメント
2024/01/28

にゃおちぃさん、はじめまして!
コメントありがとうございます♪
まことさんとのおしゃべりラリー読んでおりました(書き込みしている皆さんに届いています)。短歌界でお知り合いが多いみたいで羨ましいです。私は黒瀬様♡お慕いしているところを、「黒瀬くん」と呼べる間柄なんですね?!
『ひかりの針がうたふ』『黒耀宮』も大好きな歌集です。
これからよろしくお願いいたします(^^♪

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