染野太朗第三歌集。今回は文語体旧仮名遣いが多い、約320首収録。2016~2018年の福岡在住時の作品をまとめたとのこと。表紙カバーオブジェ津田三朗、肌色と黄土色との風合いが過ぎ去った時間の流れを表しているよう。
付箋がいっぱいです。初恋という題ではありますが、初々しさというよりも性愛も混じる喪失感の伴う歌と生活や街(熱海、福岡、大宰府など)を詠う歌が混在しています。今はここにいない人を求める心、もう会えない不在を決定づけることの寂しさを詠う歌、人の気配を詠う歌はお手本にしたいです。
きみがまたその人を言ふとりかへしのつかないほどのやさしい声で
位置ひとつ決まらぬことも愉しくて洗面台のハンドソープの
恋のやうに沈みつつある太陽が喉をふさいでなほ赤いんだ
助手席にきみ乗りたれば短かりし関門橋よ真っ直ぐだつた
焼きたての梅ヶ枝餅に息吹いてひとりし噛めばきみはおもはる
唇でちょつと熱さをたしかめる<牧のうどん>のやはきを啜る
悲しみはひかりのやうに降りをれど会ひたし夏を生きるあなたに
福岡の陽のやはらかく染みていく布団と枕 不安だよぜんぶ
よろこびがよろこびのまま夏の陽のやうだよぼくは汗をよろこぶ
染野先生は5年前の短歌教室からの出会いで、今もオンライン短歌教室を受講しています。とても丁寧でもっと良くなるにはと推敲の提案を具体的にしてくださるので、とても助かります。伝えたいことがぼんやりしている、説明文のように詰め込みすぎない、スローガンや川柳になってる、などの優しいダメ出しをもらいながらもご助言が次の歌に生かせます。「この歌は好きですね」と言ってもらえるように毎回提出するのが楽しみです。
- 感想投稿日 : 2023年8月2日
- 読了日 : 2023年8月2日
- 本棚登録日 : 2023年8月2日
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