浦野所有
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『しろばんば』、よかったです。This is 名作。ですね、まさしく。
孫バカ、傍若無人、世間知らずで恥知らず。そんなおぬい婆さんと、婆さんを誰よりも頼りにしながら、ときに鬱陶しく思ってしまう洪作少年。
2人の純な生き方が、友人関係、親戚関係、隣近所の住民関係を交えつつ、つとめて冷静に、洪作の視線でもって表現されています。これほど緻密な心理描写の作品は、そうそう読めるものではありません。
さまざまな人や物と出会い、そのたびに洪作が抱く感想は、正に少年ならでは。子どもだけがもつ理性と本能が見事に描かれていて、「ああ、自分も昔はこんなだったのかもしれないな」と、不思議に納得してしまうのです。
そして『しろばんば』でもっとも特徴的な表現といえば、たとえば次のくだり。
「納屋を少し焼いただけで火事は大事にならず収まった。子供たちは火事も見に行かなければならなかったし、バスも見なければならなかった。それからまた火事を出した農家の嫁が、自分の不始末で火を出したということで、火事の収まった直後、どこかへ姿を消すという事件があった。子供たちはまたこの嫁を探しに長野部落の山へも出かけて行かなければならなかった。やりたいことは沢山あったが、体は一つしかなかった。」(後編四章より)
何か事件があると、それを見届けなくてはいけない。それが子供の特権というか、義務なんですよね。
とにかく『しろばんば』は感動的な作品ではあるけれど、愉快な場面もたくさん散りばめられています。私も列車内で読んでいて、思わずクスッと笑うことも何度もありました。そういう意味でも、これまで読んだ小説とは異なる性質の作品だったと思います。
- 感想投稿日 : 2010年5月6日
- 本棚登録日 : 2010年5月6日
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