アーカイブの思想――言葉を知に変える仕組み

著者 :
  • みすず書房 (2021年1月19日発売)
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本棚登録 : 185
感想 : 15
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 Googleと言わず、知らないことは検索にかけてしまえば「給料分」のコメント程度はできるようになってしまった昨今、発想を順序だてて論理に落とし込む作業、全体を描く創造といったことは後回しになっているような気がしている。
 特に、技術というか、機械ものやシステムに関しては、なんのためにあって、どういう考えで作り、使っているのか残っていないことが多く、仕事の現場では機械に使われてしまっている側面が強くなってしまっている。すぐに検索サイトで調べるというのも、機械的アーカイブというか、レファレンスに使われているということなのかもしれない。
 そんな問題意識から、大昔からある図書館、広くいってアーカイブに興味を持ち、出逢った本である。
 本書の問題意識は、「発想を(実現ではなく)論理として形作ることや創造を描くこと」そのものが後回しになっていることではなく、せっかく形になって残っているものを蓄積し、すぐに使えるようにすることが(日本では)重視されないのはなぜか、に重点がある。答えの一つとして、日本における産業成長が背景にあるが、日本文化と相いれないものではない、という主張がある。たぶん、これが一つの大きな結論なのだろう。
 一方で、ギリシア以来の長い文化に加え、直観と論理を結ぶ強力なツールを生み育ててきた西洋にあっても、「適合性」は困難な問題で、文字列検索の効率化、人の「なんとなく」を機械的に学ばせたり、サマリー的な候補を大量に並べて選択させる以上のことはできておらず、質問に対して適切な答えを用意できる環境は整っていない。これは興味深い事実で、ドキュメントを無尽蔵に吸収するツールが整った現代こそ、質問者と回答者の間に仲介者が不可欠、しかも人が介在すること不可欠だということではないだろうか。
 著者にとって仲介者は司書であるべき、という考えがある(だろう)から、当然の帰結といえばそうなのだが、このような人の介在が本質的なのであれば、AIに仕事を譲ることよりもやるべきことがたくさんあると感じた。また、文字に限らず、図画、音(音楽)、映像も取り込んでしまうようになった現代、どうしていけばいいのか考えるのも面白い。
 ほかに異なる次元で興味をもったこととして、言語論的転回、言語の透明性と構築性、分節化。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 読み物(人文・古典)
感想投稿日 : 2021年4月11日
読了日 : 2021年3月29日
本棚登録日 : 2021年3月12日

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