地方の論理 (岩波新書 新赤版 1855)

著者 :
  • 岩波書店
3.21
  • (2)
  • (8)
  • (3)
  • (4)
  • (2)
本棚登録 : 119
感想 : 11
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004318552

作品紹介・あらすじ

霞が関の官僚から北海道に身を投じ、地方の課題解決に取り組んできた著者が、自らの活動から得られたさまざまな気づきや、地方を活性化させるためのヒントを惜しみなく披露。「中央の発想」にとらわれない、地方独自の物差しで洞察することから生まれてくる新たな発想やユニークな実践活動の数々を紹介する。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 地方が活性化するための要素としては↓の引用が全てを表しているといえる。
    P.184より

    「地方のことは地方で」という構造改革政策の基本姿勢によって、地域活性化の政策分野においては徐々にではあるが、地域の裁量の範囲を拡大する方向に進みつつあった。この動きを地域が効果的に受けとめるためには、国の政策部門のタテ構造から脱却することができるかどうかが重要である。地方自治体の受け手が国と同じ部門の枠組みで思考している限り進化はない。地方の機動性を活かした、他部門との有機的な連携によって、地域特性に合った政策展開ができるかどうかが鍵となる。

  • 官僚として北海道や国土の総合開発計画業務に従事した後、北海道の公立大学に身を転じ、地方の課題解決に向けた実践的な政策研究に取り組んでいる著者。
    そんな著者が自らの実践活動から得た気づきや地域活性化のためのヒントを語る。
    著者は、巨大災害時のバックアップ拠点の必要性や新型コロナウイルスの教訓も踏まえ、東京からの本社機能の移転など、分散型、分権型の国づくりの必要性を提起し、その実践例や今後の方策について次の3つの視点から論じる。
    一つは中央から離れた地方には、比較優位な資源があり、それを見つけ、活用するための大胆な発想と着眼が大事という「辺境からの発想」。この点については、自らの経験から北方領土交渉や沖縄の基地問題に触れ、地域の知恵と経験を活用した領土交渉や沖縄独自の地域政策の必要性を熱く語っている。
    また、著者が携わった中央アジアにおける市場経済化を目指した地域総合開発にも言及している。
    二つめは、弱者も含め、地域全体が相互に支え合う「共生の思想」。ここではコモンズ(入会を目的とする共有地)の概念やその事例について重点的に説明している。日本においては土地は私的所有権が強く守られており、その有効活用のためには、市場原理に任すか、国家が管理するかであるが、利害の対立を超えた協力関係構築により自主的に持続可能な管理をしていくという第三の道があるという。環境に配慮し、工業団地の保全緑地を管理する苫東環境コモンズがその事例。他にも持続的な漁業維持を目指してプール制による資源管理型漁業を展開する静岡県桜えび漁協、道の駅に防災機能を持たせる取組や遊水地の管理などの例も紹介されている。さらに北欧における自然享受権や万人権、外国人との共生を図り多文化を力にするニセコの取組にも着目している。
    最後の視点である「連帯のメカニズム」は、つながりと信頼で地域を支える力にするというもの。生活保護からの自立を支援する釧路市の取組や電子書籍化に取り組む団体の事例が紹介されている。また、北海道胆振東部地震時に起きた大規模停電(ブラックアウト)を教訓に経済効率性を求める集中のメカニズムと安定供給に向けたリスク分散のバランスを考え、域内の連携力で最適なエネルギーシステムを形成する意義を論じている。
    中央官僚として、地域の総合開発計画に携わっていただけあって、スケールの大きい視点からの地方活性化論となっている。地域で取り組む団体の代表者らによる論じ方とはひと味違うものを感じた。

  • 背ラベル:318.6-コ

  •  この書名からしてどのような結論に達するのか、どのような主張に至るのかを楽しみに読み進めていたが、少々期待しすぎてしまった。筆者の経験を通して多岐にわたる活動の場面が展開していくが、これらがうまくまとまらない感じがする。
     そして、最後は分散による効率性の低下を防ぐことによって、過度な集中を排したバランスのとれた最適な分散システムという形を提案することになるが、この部分で何か新しい論点を輝かせることができるだろうか。例えば、ドイツは機能分散型の都市立地による国土が形成されているが、このようなケースをどのように解釈するのかが示されていない。
     もし未完の論理であるならば、続編に期待することにしたい。

  • 長年霞が関の官僚として活躍したあと北海道の大学で“地方創生”を実践してきた著者。官僚・研究者・実践者としての経験が、バランスよく報告されている。
    政府に「信頼して地方に任せる度量と決断(p91)」を期待しつつ、「危機感に支えられた誇り(p203)」をもった地方市民が連帯して、様々なコモンズを展開していきたい。
    そしてこのコモンズのイメージは、『人新世の「資本論」』(斎藤幸平著)の「脱成長のコミュニズム」と通底する!

  • 地方の現状と今後に向けての提案をまとめた本だった。
    個人的にコモンズの考え方に共感出来たのと、地方創生といってもこれまでにどんな政策が提案されそれがどう実行されてきたか、歴史的観点から人口の推移はどうなっていたのかを学べたので良かった。

  • 東2法経図・6F開架:B1/4-3/1855/K

  • 318||Ko

全11件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

北海道大学公共政策大学院特任教授。1972年京都大学法学部卒業。専門は地域開発政策。北海道開発庁(現国土交通省)等勤務ののち,釧路公立大学教授,同地域経済研究センター長,同学長を経て,2012年から現職。著書に,『地域自立の産業政策』(イマジン出版,2007年),『地方が輝くために』(柏艪舎,2013年),『コモンズ 地域の再生と創造』(共著,北海道大学出版会,2014年),『地域とともに生きる建設業』(中西出版,2014年)など。

「2016年 『公共政策学の将来』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小磯修二の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
鈴木 哲也
アンデシュ・ハン...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×