ミーナの行進

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本棚登録 : 1737
レビュー : 361
著者 :
制作 : 寺田 順三 
izooさん 小川洋子   読み終わった 

これは私の生まれる2年前、1972年に、
事情があって芦屋の叔母の家に預けられた
中学生の女の子朋子が経験した1年間のお話。

そこには、自分より一つ年下の病弱の美少女ミーナ、
ドイツ人のおばあちゃん、
ハンサムな叔父様にどこか寂しげな叔母さん、
ごはんの支度をしてくれる米田さん、
木の手入れをしてくれる小林さん、
と、名前からして仕事がイメージしやすい
お手伝いのおばさんおじさん。
そしてコビトカバのポチ子がいた。

物語の始まりで、大人になった朋子は、
「もうこの家は跡形もないし、
大分様子は変わってしまっているけれど・・・。」と
読者に向かって語りかける。
「でも、だからこそ私の心の中には
このお屋敷で愛しい人達と過ごした一年間の思い出は
いつまでも生き続けているのよ。」と。

大切な思い出ってきっとそんなものだ。
現在、その当時の面影は全く失われてしまったとしても、
大切な人達と過ごした時間は永遠に生き続けている。

その思い出の中に入っていった時、
そこにいる人達はいつだって、
何事もなかったかのように、
「あら?そこにいたの?」
と温かく自分を受け入れてくれる。

現在の時間の中で、
懸命に前へ前へと進む事も大切だから、
いつもそこに行こうとはしないけれど、
ふと懐かしさが胸をいっぱいに満たした瞬間、
気がつけば、自分はその思い出を訪問している。
そんな思い出の一時、
愛しい人達と過ごした時間は、
短くても長くても自分にとっては宝物なのである。

寺田順三氏の、「ヨーロッパの子供達が暖炉の前で聞く、
アンデルセン童話」などをイメージさせるような、
温かみ溢れる挿画も大変素晴らしく、
小川洋子さんの創り出した
愛らしい二人の少女の心の中の世界を
更に膨らましてくれる。

そうそう、この「ミーナの行進」は、
子供の頃読んだアンデルセン童話集のような物語。
単純なハッピーエンドでは終わらない、
時にちょっと哀しかったり切なかったりする、
いくつものエピソードがまとまって
1冊の本が出来たような感じ。

全てを読み終えた時、この物語は、
既に遠い時の彼方にある「喪われた楽園の物語」で、
懐かしさと共に少しの寂しさも感じる。
しかし、この物語で描かれる思い出達は、
少女ミーナが灯したマッチの火のように、
いつまでもこの物語の登場人物と私達読者の心を
優しく照らし、ぽかぽかと温めているような、
そんな気持ちにしてくれるのである。

レビュー投稿日
2009年6月14日
読了日
2009年4月30日
本棚登録日
2009年6月14日
2
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