グスコーブドリの伝記―猫の事務所・どんぐりと山猫 (ますむら・ひろし賢治シリーズ)

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レビュー : 26
制作 : 原作 : 宮沢 賢治 
izooさん 漫画   読み終わった 

何を隠そう、私が宮沢賢治の作品の中で一番好きなものは、
「銀河鉄道の夜」でも「風の又三郎」でもなく、
この「グスコーブドリの伝記」である。

初めて読んだ時から現在まで、ずっと私の心の奥底で、
作品に込められた著者宮沢賢治の
「精神(こころ)の火」が静かに燃え続けている。
恐らくこの火は、私が死を迎えるその日まで
ずっと燃え続けているような気がする。

そんな作品と運命的な出会いを果たしたのは、
確か小学校高学年だったと思う。
図書館の漫画コーナーで見つけたのが、
登場人物が猫の姿で描かれた、
この「ますむらひろし版」だった。

物語に描きこまれた細かい部分や作者の想いまでは、
当時、読み取れなかったかもしれないが、
そんな子供なりにラストを読み終えた時、
胸が感動で痛み、涙を流していたように思う。

厳しい自然の中で生まれ育ち、家族を飢饉によって失い、
多くの人との出会いと別れを通して、
思慮深く、賢く成長していく青年技師グスコーブドリ。

彼は「最期の日」を迎えるその時まで、
大地と向き合い、対話し続けた。

自分の生まれ育った土地をより実り豊かにするために、
そこに住む人達が飢えで苦しまないようにするために、
自分は何をするべきか。

ひたむきに探求し続け、
ようやく見つけたその答えを実践するためには、
自らの命の炎をふき消すことすらも恐れない、
静かでありながらも毅然と
己の内の情熱と勇気を燃やし続けるブドリの姿は、
どこか作者宮沢賢治を彷彿とさせる。

それから十数年後に原作を読んだ時も感動したが、
初めてグスコーブドリと出会った小学校当時は、
ますむら版の猫の姿の彼で良かったと私は思っている。

作中に出てくる農業や火山の話は、
私にとっては少々難しく感じたし、
ますむらさんの描く猫のブドリは
美しい瞳の持ち主で、
純真かつ勤勉、努力家で勇気があって、
読者の私達に、生き生きと、
大地に注ぐ自分の情熱を語りかけてきたから。

もし、この作品を文字だけで読んでいたら、
途中で挫折してしまったかもしれないし、
たとえ完読しても「この作品、ちょっと難しかったな。」
といった感想を抱いてしまって、
ここまで感動出来なかったかもしれない。

登場人物の姿が猫に変わるものの、
宮沢賢治の原作には大変忠実なこちらの作品。

イーハトーブの地を寒さと飢饉から救うために、
ブドリが自分の身を犠牲にする事を決意した際、
その決断を止めさせようと説得を試みる学者に対し、

「私のようなものはこれから沢山できます
私よりもっともっと何でもできる人が
私よりもっと立派に もっと美しく
仕事をしたり笑ったりしていくのですから」

と答える。

自分の未来を断ち切る代わりに、
他者の未来を繋げる選択。

自分の命を諦める代わりに、
他者の命を残す選択。

自分だって、もっと勉強して、
素晴らしい仕事をして、
妹家族や仕事仲間といっぱい笑って
日々を過ごしたかったはずだろう。

平凡かもしれないが、彼の前にはそんな
温かな未来が続いていたかもしれない。

それなのに、自分だけがそれをあきらめた彼は
無念さや悔しさも滲ませず、
残る者に対し、
「私よりも立派に 美しく」と言う。

その言葉、その姿は哀しくも、
潔くて清々しい。

初めてこの作品に出会った11、2歳の時も、
それから20年以上の時が流れた今も、
読むたびにこの言葉は私の胸を熱くする。

きっと、あの日私の心に灯された
宮沢賢治の「精神(こころ)の火」が、
今も燃え続けているからだろう。

レビュー投稿日
2009年3月31日
読了日
2009年3月31日
本棚登録日
2009年3月31日
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『グスコーブドリの伝記―猫の事務所・どんぐりと山猫 (ますむら・ひろし賢治シリーズ)』のレビューへのコメント

猫丸(nyancomaru)さん (2013年4月8日)

「この「グスコーブドリの伝記」である。」
私もです。
なかなか出来ないですが、この心は受け継いでゆきたいと思っています、、、

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