猫を抱いて象と泳ぐ (文春文庫)

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著者 :
jhmさん  未設定  読み終わった 

唇が閉じられたまま生まれた少年は、手術によって唇を造られる。無口な少年は、ビルに挟まれて死んだという噂になった少女ミイラと寝る前に話すときだけ滑らかに喋る。ある日、バスで暮らす大きな身体の男性にチェスを教えてもらう。少年はバスで、マスターと猫とチェスをすることが楽しみだった。

こういった始まりをする物語。
いつものように小川洋子さんのひそやかな世界がはじまる。
物語の概要を書いたけれど、読んだことのないひとにはよくわからない話に感じられるかもしれない。でも、このつかみどころのないボヤッとした雰囲気こそ小川洋子さんの世界とも言える。

「猫を抱いて象と泳ぐ」というタイトル。
この不思議なタイトルも魅力的であり、本文を読めば意味もわかる。
タイトルからして小川洋子さんの世界が確立されていると感じる。

チェスというゲームをわたしはよく知らない。
ビショップだのルークだのいう言葉は聞いたことがあり、チェス盤や駒も見たことはあるけれど、それらの駒をどのように動かして愉しむものなのか知らない。
この本を読むまでチェスを知らないことを何とも思ったことがなかったけれど、読んでみてチェスの面白さを知らないことをとても残念に感じた。
チェスはゲームであるけれど、人生でもある。

少年はマスターの死を見て、大きくなることは悲劇だと考える。大きくなりたくないという少年の気持ちのまま少年は少年の姿のままに大人になる。
少年の心には、唇に奇形を持っていたことやマスターの死、猫を救えなかったことなど多くの消えない傷を刻みつけられている。
その傷を持ったままチェスに人生を賭ける。

物語はゆっくり穏やかに進むのだが、終わりは不意にやってくる。
切なく物哀しいものではあるけれど、それだけではないやさしさが残る。

慌てるな、坊や
この言葉はマスターが繰り返し少年にかける言葉だ。
この言葉ひとつにマスターのやさしさと少年への信頼、いつでも見守っているという気持ちが表れており、読者にまであたたかい思いが伝わってくる。

巻末の山崎努さんの読書感想も素敵だった。

チェス、今からでもルールを教えてもらいたいなと思わされた。

レビュー投稿日
2016年6月9日
読了日
2016年5月26日
本棚登録日
2016年4月16日
3
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