日本人の戦争観: 戦後史のなかの変容 (岩波現代文庫 社会 107)

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  • 岩波書店 (2005年2月16日発売)
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日本人の戦争観について、一般に知られている通り、日本人の戦争観には被害者意識が強く、加害者意識が弱い。歴史認識についても近隣国に対して反省が弱いと考えられている。では、それはなぜかという答えがこの本で議論されているところである。加害者意識の弱さの根源としては、日本が終戦という形を持って植民地を手放したことである。他の宗主国は植民地との血みどろの独立運動を経て植民地を手放している一方であっさりと植民地を手放すこととなった日本人は帝国意識が強く、アジア近隣国に対して思慮が及んでいないとも考えられる。では、なぜ被害者意識が弱いのか。日本の賠償はアメリカによる一国精算であったと同時に、アメリカのアジア戦略の都合上、早くに日本の賠償問題を切り上げて日本を衛星国としたことで、反省の意識をもつ間もなく戦争の精算がなされたという理由もある。また、当時アジアの国の国際政治上の地位が低く、それを暗黙のうちに承認してしまった。もう一つ考えられるのは、戦後という観念について経済復興を指標に考えていたことである。もはや戦後ではないという標語は、戦後の経済水準を越えようとする意志であるという一方で、戦後という観念を経済復興に一元化する効果があったとも考えられる。
軍部の暴走というイメージのもと、国民が騙されたという意識を持っていたことも加害者意識を軽薄にさせた。しかし、やはり騙されたという話ではすまないもので、今日が終戦70年であるが、この本からの教訓として、騙されるような国民になってはならないという点を意識したい。また、もう一つ示唆的だったのは、騙されたという意識に付随するが、戦争中の負担の不平等である。戦争中だからこそ、負担はその前の社会的序列に基づいて分配される。戦争と貧困は安易に結びつくが、このような事態も忘れてはならない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2015年8月15日
読了日 : 2015年8月14日
本棚登録日 : 2015年8月14日

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