羅生門・鼻・芋粥 (角川文庫)

3.64
  • (59)
  • (74)
  • (107)
  • (18)
  • (3)
本棚登録 : 1083
レビュー : 79
著者 :
やまたくさん  未設定  読み終わった 

芋粥がとても良い。マリッジブルーの話と解釈した。人間は目標の達成という事実よりも目標を達成する努力や憧れなどプロセスを好む。夢が叶いそうになる時の一瞬の戸惑いはよくわかる。鼻は素晴らしい。コンプレックスという人間には切っても切り離せない問題をうまくついている。アイデンティティというものは、欠点も含めて存在している。その人にとってどんなに嫌な体の一部や考え方の癖などは、実はなくなってしまうと意外に寂しいものであったりするのである。
ひょっとこ。これは、仮面をつけている間に、元の自分に戻れなくなってしまった人間の話である。最近、ジキルとハイドを読んだせいか、なんだか近いものを感じた。人間の内面を感情と理性の葛藤とみなした場合、一度感情や快楽に溺れてしまうと、もはや元の自分には戻れなくなる。
煙管。どこかで読んだことがあった。ものというものはそれ自体の価値だけではなく、社会的に付与された価値というものがある。皆が持っていないこと、そしてそれを惜しげもなくあげてしまうことが富の顕示につながるのだ。ここに、マルクスの物化・物象化の概念を見出すのは拡大解釈だろうか。物の価値は、あたかも自然にあるもののような外装をしているが、実際には社会的関係の中で価値を持っている。富の顕示という意味では、モースの贈与論など、贈与というものがもたらす人類学的な働きについても考えることが可能である。

このような作品群を見る中で私が感じたことは。生きることや自分という存在への肯定である。つらいことや苦しいことも含めて人生であり、醜いところも含めて自分なのである。人は夢や理想を語るが、叶いそうになる瞬間に躊躇する心は、まさしく理想や夢を具現化できていない自分への愛、何か憎めない、不能への愛であると思う。そのような意味で、芥川龍之介はやはり人間の真理を鋭く突いている。

レビュー投稿日
2016年7月5日
読了日
2016年7月5日
本棚登録日
2016年7月5日
1
ツイートする
このエントリーをはてなブックマークに追加

『羅生門・鼻・芋粥 (角川文庫)』のレビューをもっとみる

『羅生門・鼻・芋粥 (角川文庫)』のレビューへのコメント

まだコメントはありません。

コメントをする場合は、ログインしてください。

いいね!してくれた人

ツイートする