次郎物語(下) (講談社青い鳥文庫)

著者 :
  • 講談社 (1989年6月10日発売)
3.82
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本棚登録 : 45
感想 : 4

下巻読了。下巻は本田のおじいさんが亡くなる場面から“くらって”しまった。
正木の家に養子に入っている謙蔵おじさんと、次郎との気まずい場面も、なんとも現実くさくて印象深い。
また下巻終盤(お浜との再会やお民の話)からは、ずっと泣きながら読んだ。

お民(次郎の母)との場面では、自分の親が闘病していた頃のことや、最期の姿と重なってしまって、まるで次郎が自分で、自分が次郎になったかのような気持ちで泣いてしまった。
下巻ラストシーンで、次郎が北極星を見つめる場面も印象的。
この話を読み終えるのが寂しい。図書館で借りた本であるが、この児童版も手元に置いて読み返したいし、もちろん岩波文庫のほうも読みたい。

本当に出会えて良かった物語だった。




引用…

 入棺が終わると、かれは、きゅうに力がぬけたようになりました。お棺の前には、たくさんのろうそくがともされ、お花がかざられ、いろいろのそなえものがならべられて、へやの中が、しだいににぎやかになってきましたが、かれの目には、なにもかもがつまらなく見えました。 かれは、もうなにも見たくありませんでした。まっ暗なところに、一人でいたいような気になってきました。
 かれは、ふいに立ちあがって、お棺の前をはなれ、縁側から庭におりました。 そして、他の端までいくと、庭石に腰をおろして、じっと、水の面を見つめました。水には星空が、しずかにうつっていました。
 水にうつった星空を見ているうちに、かれの頭に浮かんできたのは、いつぞや正木のおじいさんに教わった北極星のことでした。 かれの目は、いつのまにか空をあおいで、その星をさがしていました。それは、わけなく見つかりました。
(いつまでも動かない星。)
 かれは心の中で、そうくりかえしながら、一心に、それに目をこらしました。
目をこらしているうちに、それが亡くなった母の魂でもあるかのように思えてきました。
「ばあやよりも、もっともっと遠いところから、いつまでも次郎を見ててあげるよ。」といった母の魂ーーそう思って見ていると、その光が、なみだにうるんだ母の目に似てきました。そして、そのまわりには、いつのまにか、母の顔全体が、ぼんやりとあらわれていました。
 母の顔があらわれると、それとならんで、お浜の顔もあらわれました。そして、二つの顔は重なりあったり、はなれたり、また、泣いたり、わらったりしました。そのうちに、かれが物心ついてからのいろいろのできごとが、まわりどうろうのように、かれの頭の中をまわりはじめたのでした。
 かれは、しかし、自分の気持ちまでを、まわりどうろうのように、かきみだされていたのではありませんでした。かれの心は、ふしぎなほどしずかでした。悲しかった思い出も、苦しかった思い出も、腹だたしかった思い出も、すべては池の水にうつっている星の光のようにしずかに、かれの心にうつっていたのです。
 かれは、「運命」ということばを、まだ知らなかったかもしれません。しかし、自分ではどうにもならないある力で、自分がたえず動かされてきたということを、もう、いやというほど知らされていました。
 かれは「愛」ということばを、まだ口にしたことがなかったかもしれません。しかし、かれほど愛にうえ、愛をもとめ、愛の味をかみしめた子どもも、そうたくさんはありますまい。
 かれは、むろん、まだ「永遠」ということばはきいたこともなかったでありましょう。しかし、「いつまでも動かない星」が大空にかがやいていることを、もう知っていましたし、また、それを亡くなった母の魂とむすびつけて考えることさえ知っていました。
 で、もしかれが、大きな悲しみの中で、しずかに星空をながめ、「運命」のあらしの中を「愛」のともしびにみちびかれつつ「永遠」の世界に旅する人間のすがたを、おぼろげながら心に描いていたとしても、それはあながち、ふしぎなことではありますまい。わたしは、みなさんとともに、かれが心に描いた人間のすがたが、かれ自身のこれからの生活に大きな力となることを心が
ら祈って、ひとまず、 わたしのペンを休めることにしたいと思います。


引用終わり…


なんと美しい文章なのでしょうか。多くの子供に、大人に読んでもらいたい物語でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年8月23日
読了日 : 2023年8月23日
本棚登録日 : 2023年8月23日

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