ゲンロン0 観光客の哲学

4.14
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本棚登録 : 1004
レビュー : 56
著者 :
juckenさん 哲学・思想   読み終わった 

不思議な本である。そして同時に傑作である。

本書のテーマは重い。極めて重い。今の世界が直面する困難の構造を析出し、それを突破する主体を構想する。それが本書の目的である。ところが、その重すぎるテーマを前にして本書の叙述スタイルはなんだかとっても妙だ。文章はわかりやす過ぎるほどに明快であり、哲学書・思想書にありがちな晦渋さとは無縁。随分くだけた表現もあり、場違いなほど俗っぽい物言いに思わず吹き出してしまうこともしばしばだった(とはいえ、これは東の話術=トークにおいてはおなじみのものだが)。もともと著者・東は複雑なものをシンプルに整理して提示する達人だが、本書ではその技術がいよいよ究められつつあるように感じられる。

全体の構成も面白い。本書は二部構成で、第1部ではまず今の世界のありようを描き、それに抵抗する主体として観光客=郵便的マルチチュードなる概念が提示される。この新しい主体のアイデンティティの在り処を探るのが第2部となる。詳細については実際に読んでもらえればいいのだが、東は上記のストーリーを描き出すために多様なモチーフを呼び出している。観光学や政治哲学を参照して記述する第3章あたりまではいいとして、第4章以降はネットワーク理論に情報社会論(サイバースペース論)にドストエフスキー論と怒涛の展開である。さらに第1章のあとに挿入される付論では東の過去の仕事であるオタク論および福島第一原発観光地化計画についても言及され、本書との接続が図られている。このような混淆性により、本書を読むことそれ自体が一種の知的観光となっている。まさに構成の妙と言えよう。

以上のような独特の叙述スタイルは、課せられたテーマの深刻さにもかかわらず、本書をさわやかで風通しのよいものとしている。この「まじめ」と「ふまじめ」の同居こそ、本書の不思議な印象の正体だろう。

内容については下手な要約をするより実際に読んでもらうのが一番だと思う。大変刺激的な議論である。第2・3章の近現代政治哲学の鮮やかすぎる整理は大変勉強になった。第4章で試みられる社会思想とネットワーク理論の接続は驚くべきアイデアであり、今後賛否両論を呼ぶことになるだろう。第6章は東の初期の仕事であるサイバースペース論のアップデート。第7章(最終章)のドストエフスキー論は感動的ですらある。

ついでに言うと、本書は「東浩紀による東浩紀入門」としても読むことができる。前述した「多様なテーマ」とは、つまりは東が過去に取り組んできた仕事の集積であり、それを「観光客」というパースペクティブから再構成し、そこに新しいアイデアを加えてできたのが本書ということになるだろう。これまで東浩紀の最初の一冊は『動物化するポストモダン』か『弱いつながり』あたりだったのかもしれないが、これからは間違いなく本書となるはずだ。入門したところから一気に最前線まで連れていってくれるのだから贅沢なものである。

レビュー投稿日
2017年4月7日
読了日
2017年4月2日
本棚登録日
2017年4月7日
2
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