Babel: Or the Necessity of Violence: an Arcane History of the Oxford Translators’ Revolution
- HarperVoyager (2022年9月1日発売)
去年のうちに必ず読み終わりたいと思い、年末12月頭から慌てて読み始めたにも関わらず、他の洋書や和書も並行して読んでいたら結局読了出来たのは昨日になってしまった…。辞書みたいに分厚く、オーディオでは22時間弱という超大作。脚注の量が多いという事前情報を得ていたので、これは目読書のほうがいいかなとも思ったけど、『翻訳』がテーマとなってくる作品なので多言語がたくさん登場するだろうなと踏んで、そこの要素は音声でも楽しみたいので、結局目読書と耳読書のハイブリッド方式を取ることに。結果的に、多言語の発音がリアルに聴けるオーディオを導入したのは、この作品を楽しむ為には良い選択だったと思う。この本が話題になり始めた当初は、ファンタジー色が濃いストーリーなんだと勝手に思い込み、ファンタジーがあまり得意でない私は敬遠していたんだけれど、ファンタジーというよりもアカデミア系+歴史小説というカテゴリーだとどこかで知り、それなら読みたいとずっと思っていた。1830年代のイギリスはOxfordを舞台に、世界中から集められた言語のエキスパートである学生や研究者が作り上げる “Royal Institute of Translation (通称Babel)” という機関で学ぶことになった、中国の広東省からやって来た主人公Robinと、彼と勉学のみならず学生生活における全てを共有することになる親友3人が過ごすOxfordでの生活の描写はとても興味深く、Harry Potterのような魔法要素は無いとはいえ、彼らが特別な学校という環境に身も心も染まっていく様子に一緒になってワクワクしたりした。そんなアカデミア系のストーリーが、ページが進んでいくうちにどんどんとダークになっていき、当時世界で最も力を持つ国とされた大英帝国の経済力がどこから来ているのかという秘密が明らかとなり、英国の植民地支配の裏側や他国とのパワーゲーム、それを阻止しようとするレジスタンス運動の過激化…という展開へと発展していく。歴史の流れに沿いつつ、『翻訳』という行為に焦点を置き、言語が持つ力をこんな壮大なスケールのヒストリカル・フィクションに仕立て上げられるだけで素晴らしいのに、英国の一人勝ちゲームを断ち切る為にひっそりと存在する秘密組織に加担する人々の覚悟や、永遠だと信じていた友情を覆す裏切り、怒涛の時代を生きるRobinを始めとした若き学生達の激しい心情の変化など、とにかく登場人物達のキャラクター設定が徹底していて、人間性が細かく描写されているのもとても読み応えがあって、1830年代の激動のOxfordをRobin達と共に過ごした気分になった。同時に、当時の有色人達が味わっていた差別や、学問において男性に比べて女性の立場が極端に低かったという事実がRobinや親友達の置かれた立場を通してありありと伝わってきて、読んでいるこっちも歯痒い想いをしたり。とは言ってもやっぱりOxfordのアカデミックさに溢れた街並みや建物の描写にも心が躍ったし、必ず近いうちにOxfordを訪れてみたいと思う。学生時代から英語を勉強してきて、洋書を読むようになり、仕事で翻訳業務にも携わるようになって『翻訳』という作業の奥深さを身をもって知る社会人時代を送る今、こんな作品に巡り会えるとは。やっと読めて本当に良かったなと思える本だった。
- 感想投稿日 : 2024年3月10日
- 読了日 : 2024年3月10日
- 本棚登録日 : 2024年1月15日
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