Blindness (Harvest Book)

著者 :
  • Mariner Books (1999年10月4日発売)
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本棚登録 : 20
感想 : 3
4

先日読み終えた”The Diary of a Bookseller”のエントリーで、作者が経営する古本屋に持ち込まれた本の中にこの”Blindness”があって、それを読んだ作者が”astonishing”だったと感想を書いていた。この作品はかなり前から気にはなっていて、Audibleでオーディオブックをダウンロードしてはいたものの、聴き始めるタイミングを逃しまくってたんだけど、スコットランドで一番大きな古本屋の店主が絶賛しているのに背中を押され、やっとこさ味わうことが出来た。

作者がポルトガル人で、原作が英語に翻訳されているのを耳読書したけど、物語の舞台は近未来でもなんでもなく、今現在の、世界のどこかにある街。ある日いきなり、一人の男性が車を運転中に視力を失い、この男性が妻と共に訪れた眼科医のクリニックから、感染病のように周りの人達も次々と視力を失っていく。政府はその流れを食い止めようと、既に視力を失ってしまった人達と、まだ視力はあれど盲目になってしまった人々と接触していずれ視力を失うだろうとされる人達を、整備もろくに整っていない施設に監禁し、軍隊に監視させる形で対策を取ろうと試みる。感染を恐れる軍のメンバーは、中にいる人々に食料を運ぶのはもちろん、どんな形でも接近するのを最大限に避け、監禁された人々は食料不足で飢えだし、施設内の盲人達の間では権力争いが勃発し、少ない食料を巡って貴重品を通貨のように扱い出したり、女性達がリーダー格のグループに体を差し出す代わりに食料を分けてもらったり、そんな中でシャワーも浴びれずトイレにも自由にたどり着けない盲人達の体が放つ異臭と、絶望感。この地獄からどうにか脱出しようと、盲人の一人が起こした放火を機に、必死で生き延びた人々が外に出ると、軍隊全員も視力を失ったせいで監視する者が誰も周りに残っていない施設の周辺。でも街中の全員も視力を失い、社会全体の機能が停止してしまっていて…。

という、最初から状況がぐんぐん悪化していき、聴き進めるごとにどんどん気が重くなるストーリーでした。社会が崩壊していく様が淡々と描写されていて、恐ろしい。キーパーソンは、眼科医の妻。最初に盲目になってしまった、車を運転していた男性の妻や、彼を診療した眼科医はすぐに視力を失ってしまったのに、眼科医の妻だけは、夫に付き添って盲人のフリをしながら隔離施設に入れられた後も、そこから脱出した後も、ずっと視力を保ったまま。彼女がいなければ、眼科医率いるグループが生き残ることは不可能だっただろうし、物語自体の流れが全く違ったものになっただろう。まだ目が見えるたった一人の存在として、立場を横領されないように、自分の視力のことは夫以外には隠しつつも、周りの人々を手助けしたり、守ったり、誘導したり、でもその分、目にしたくもない社会のおぞましい現状が目に飛び込んできて、「いっそ私も目が見えないほうがいい」と願ったり。五感の一つが欠けるだけで、社会の秩序がこんなに崩れてしまうのか…生き残る為とはいえ、人間ってお互いにこんなに自分勝手で残酷になれるのか…と、愕然とした。これもまたある種のディストピア作品で、最後の最後に待っている希望に辿り着くまで、延々と生々しい人間らしさが描かれ続けていて、読んで楽しい作品では決してない。けど、こんな地獄みたいな状況の中でそれでもお互いに助け合おうと協力する人達の、これまた『人間らしさ』にも心が救われるし、普段当たり前に思っている『見える』ということが、改めてどんなに有難いことなのかがわかる。一度読んでみる価値のある本だと思う。

と、こんなことを考えていたら、三重苦のヘレン・ケラーなんか偉人過ぎて言葉が出てこないと思ってしまった…。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: Dystopia
感想投稿日 : 2021年4月28日
読了日 : 2021年4月28日
本棚登録日 : 2021年4月20日

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