Klara And The Sun: The Times And Sunday Times Book Of The Year

著者 :
  • Faber & Faber (2021年3月2日発売)
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本棚登録 : 64
感想 : 9
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今本屋に行くとずらりと並んでいる、イシグロさん最新作。ちょっと前に “The Remains of the Day” を読んだこともあるけど、なにせこの本の赤いジャケットが目立って気になってた。あらすじをささっと読んで、AIの話なんだろうという事だけは知りつつ、今回も耳読書にて読んでみた。

まずは、AIであるKlaraが人間の女の子Josieの家に住むようになるまで店頭に飾られている間の、彼女の目線による人間観察の様子だったり、ソーラーで動く彼らAIにとってライフラインとなる太陽光の存在 (Klaraにとって太陽は全知全能の神的存在で、人間の体力を回復させる力すら持っていると信じている)、そして他のAIとの関係性の描写が新鮮。Klaraは観察力がズバ抜けていて、人間界の色んな事に気付いたり、彼女なりに人間の感情を理解しようと真剣に考えたりするんだけど、それがこの物語の要である『愛とは何か』という問題に深く結びついているんだろう。そして、彼女の目を通して描かれる世界だからこそ、Josieを始めとする周りのティーンの子供達が”lifted”なのか”unlifted”なのか(知能を高める為に遺伝子的な調節をされているのか、いないのか)という会話の内容の解釈が読者自身に委ねられていたり、Klaraが周りの人間にどんな扱いを受けても感情的になることなく冷静に相手の感情を分析しようとしたり、彼女が「Josieの病気は太陽の力を借りれれば治るけど、それには空気汚染を生み出す憎きCootings machineを破壊しなければならない」 という結論に辿り着く理由で、AI側から見た人間の世界というのはこんな風に映る可能性があるのかぁ、と面白い。でも、最後の展開で、太陽の力のおかげ云々は置いておいて、奇跡のように回復して大学に進学出来るまでに成長したJosieが家を出た後、すぐにジャンクヤード的な場所に捨てられてしまったKlaraが描かれていて切なくなったし、自分のエゴの為に娘Josieの遺伝子を操作しておいて、それが原因で病気になってしまった彼女が死んだ場合にKlaraを娘の身代わりにしよう…とJosieそっくりのAIまで用意していたのに、Josieが大学進学の為に家を出た後用無しとなってしまったKlaraをいとも簡単に捨てる母親の行為が、人間の身勝手さを表している。それでも、誰を責める事もなく、そこに一人で座って今までの記憶を回想していくKlaraが尊い…。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: SF
感想投稿日 : 2021年3月19日
読了日 : 2021年3月19日
本棚登録日 : 2021年3月15日

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