「川の深さは」に超絶感動して読んでみた2冊目。期待にたがわずこれもおもしろかった。類型的といってしまえばそのとおりで、登場人物がよく似ている。落ちこぼれかけた中年の主人公平貫太郎は桃山そっくりだし、護と理沙は保と葵を彷彿とさせる。仮想的な設定や、個と組織との戦いという筋書きもあらっぽくいえば似たようなものだ。ハッピーエンドとはいえない破滅的な最期にもかかわらず、意外と読後感が爽やかなのも似ている。
ただ、完成度とか得られる感動とかを比べると、大方の書評に書かれているように、「川の深さは」が数段上なのは間違いないだろう。でも、だからといって本作がつまらないとか劣っているということはないと思う。似すぎているだけに変わりばえしないというか、評価的に損をしているが、単独に読めば十分面白いし感動できる。前作にもまして荒唐無稽な設定。だけど、護衛艦の甲板からヘリが飛び上った時、ぼくは心底感動で震えた。よっしゃあ、やったろうやないか!
これがおそらくこの人の作風なのだろう。今がどんなに不遇で落ちぶれていても、心の奥底にある熱い火はけっして消えていない。いや絶対に消してはならない。人間としていかに生きるか。真に生きるに値する人生とは。それを痛烈に問いかけられる。そう、まるで藤原伊織の小説のように。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
現代小説
- 感想投稿日 : 2012年12月31日
- 読了日 : 2012年5月10日
- 本棚登録日 : 2012年12月31日
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