ムギと王さま: 本の小べや 1 (岩波少年文庫 82 本の小べや 1)

  • 岩波書店 (2001年5月18日発売)
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本に囲まれて育った著者による児童文学短編集。
静かで豊かな語り口です。

『ムギと王さま』
”わたし”がその村に行ったとき、村の人たちがたいそう可愛がっている「村のあほう」と呼ばれる若者がおりました。ふだんはただ畑に座って笑っているだけですが、なにかの拍子でとめどなく話をしつづけるのです。
そして”わたし”が畑にいたときに、彼はお話を始めたのです。
それは彼が昔むかしエジプトにいたころの話でした。彼は自分のお父さんのムギ畑をとても好きでした。しかしそこへ通りかかったエジプトの王さまは、自分こそがこの国一番の金持ちだということを示すためにそのムギ畑を焼いてしまったのです。
彼は焼け残った数粒のムギを蒔きました。やがて王さまが死んだとき、彼のムギも王さまの捧げものとして一緒に埋められたのです。
長い年月が経ち、エジプトの王さまのお墓が発掘されたときにも彼のムギはまだ残っていました。
若者は言います。あの時の種から蒔いたムギが、いまこの畑で実っている。ほら、ほかのどの穂よりも高く、どの穂よりも輝いて。

###これこそ豊かな精神の語りというような物語。
このようにその場でその相手に語れる人を”語り部”というのでしょう。

『月がほしいと王女さまが泣いた』
小さな王女さまはベッドから抜け出して空を見ていたのです。そしてきれいなお月さまを見てほしいと思ったのです。しかし月は手に届きません。そして王女さまはしくしくと泣きました。
その様子を見た昼と夜の動物は、王女様に付きを上げるべきだと仲間に声をかけました。
翌朝お城は、王女さまが誘拐されたと大騒動です。
料理番は料理をやめ、それにならって女たちが仕事をやめ、だから男たちも仕事をやめ、その様子を見た近所の国は戦争の準備をして、そして昼と夜も役目を放棄してしまったのです。
この騒動は王女さまが戻って収まったのですけどね。

『ヤング・ケート』
まだケートが若い娘で女中をしていたころ、ケートを雇っていた家では危険だからと外出を禁止していたのです。
川には『川の王さま』がいるし、牧場には『みどりの女』がいるし、森には『おどる若衆』がいます。
やがてケートが自分の家を持つときに、彼らの全員にあったけれど、それはとても楽しく気の合う人たちでした。
だからケートは自分の子どもたちには外出を勧めて育てたんです。

『名のない花』
小さな娘の見つけたきれいなお花。だれもその名前を知りません。
花は両親から、農場管理人の手に、それから学者さんの手に渡ってしまいました。
そのまま名前のない花は忘れられてしまいました。
でも娘さんは、大きくなってからも決してその花がどんなに綺麗だったかを忘れませんでしたよ。

『金魚』
小さな金魚が海の中で嘆きます。だって自分は月と結婚できなくて、太陽より偉くなれなくて、世界が自分のものにならないのですから。
それを聞いた海のネプチューン王は笑っていいます、それではお前の望みを叶えてやろう。
小さな金魚は、その小ささにふさわしい小さな世界で、その小ささにふさわしい小さな幸せを叶えました。それを見てネプチューン王は笑ったということです。

『レモン色の子犬』
殿さまの木こりのジョーが持っていたのは、母親の形見の指輪と、父親が作った椅子と、最後の小銭と取り替えたレモン色の子犬だけでした。
そのころお城では王女さまが、どうしてもほしいものが有ると泣いていたのです。
ジョーにはわかりました。その望みを自分がきっと叶えられることを。

『貧しい島の奇跡』
たいそう貧しい島がありました。その島の宝物は美しい一株の薔薇の花でした。
ある時女王様がその貧しい島を訪ねてくることになりました。
島ではこの美しいバラを見てもらおうと思いました。
しかしそのバラは、女王様のために別のことに使われたのです。
島には宝物がなくなってしまいました。
しかし何年か経ち、島が洪水に襲われたときに、女王様はその島に自分に示した心遣に対して奇跡で応えたのでした。

『モモの木をたすけた女の子』
マリエッタは自分のモモの木をとても大事にして、まるで友達のように思っていました。
マリエッタにはモモの木の声が聞こえたし、モモの木の話す山の様子も知ることができたのです。
やがて山が噴火し、恐ろしい火が村に向かってきます。
マリエッタは自分のモモにさよならのキスをしに戻ります。そしてモモの木の声を聞いたのです。

『西ノ森』
アクセク王の若い王さまに、そろそろお妃さまを迎えるころになりました。
王さまは詩を書いたのに、女中のシライナがそれをどこかにやってしまったのです!
お妃さまを迎えるために、北、南、東の国に行く王さまですが、どうにもこうにも当てはまらないのです。
そして壁で隔たった西の国に行ってみることにしました…。

『手まわしオルガン』
くらい道をゆく旅人の耳にはいった手まわしオルガンの音楽。
旅人はうれしくなりました、そして一緒に踊りました。
オルガン弾きは言います。オルガンはどこでも弾けるし、踊り手だってどこだっているもんさ。
そう、森の中は、上から下まで音楽と踊りでいっぱいになりました。

『巨人と小人』
知恵も心も持たない巨人は世界を割るだけの力を持っていました。
考える力と心を持つ小さな小人は世界を作り変えるだけの知恵を持っていました。
天使たちは彼らが一緒になることを恐れていたのです。
しかしその日が来てしまったのです…。

『小さな仕立て屋さん』
王さまのお妃選びが行われます。
ドレスを仕立てた仕立て屋さんは、モデルとして自分がドレスを着てみせます。
王さまの従卒の若者は、仕立て屋さんにダンスを申し込むのでした。

『おくさまの部屋』
「ああ、ああ、私はこの部屋に飽きてしまった!」次々に望みを変える若い奥さん。妖精さんは最後に彼女に自分の言葉の意味を分からせるのでした。

『七ばんめの王女』
お妃さまは王さまにたいそう大事にされていました。大事にされすぎて、御殿から出してもらえなかったのです。
お妃さまはやがて七人の王女さまを産みました。
王さまは「一番神の長い娘を跡継ぎにする」と言ったのです。
お妃さまは、最後に産まれた王女さまだけは、自分の手で自分の本当に欲しかったものを手に入れられるように育てたのでした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史、伝承、民話
感想投稿日 : 2020年4月18日
読了日 : 2020年4月18日
本棚登録日 : 2020年4月18日

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