虚無への供物 (講談社文庫 な 3-1)

著者 :
  • 講談社 (1974年3月1日発売)
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水沼家で起きた水死とガス中毒死、老人ホームの火事、舟の沈没事件、これらは連続殺人か?
人が死んでると言うのに妙に張り切る素人探偵たちの繰り広げる推理合戦。それらは推理小説を基にしているので理屈っぽくて全く現実的でない。そもそも「事故」と判断されたものを彼らは無理やり「密室殺人だ!」「犯人は読者よ!」、(作中では)現実の殺人事件なのに「そのトリックは推理小説では反則だから却下」なんて得意気にやってるんだが、読者としては「そもそも本当に殺人なの?」「殺人だとしてもそんな非現実的な話があるかい!」「犯人が読者だったらあなたたちのなんの立場?」と戸惑いつつ進める。
現代風に言えば「中二病を拗らせた」登場人物の行動や、作中作品や、目くらましのようにパズルのように示される幻想的エピソード、姦しい素人探偵たちのおかげで無用にこんがらがる事件。
素人たちの中では一人俯瞰的目線を持つ男が「解明したくないけど、しなくてはこの素人探偵たちが納得しないから仕方なく」事件解明。
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「日本三大奇書」と聞いて学生の頃に読んだのですが、ミステリーとしても小説としてもよく分からず、その時はそれっきりでした。
その後中井英夫が久生十蘭のファン(ジュウラニスト)と聞き、改めて読んでみたらなんかある意味納得しました。植物学者だった中井英夫のお父様と、戦時中は記者だった久生十蘭に交流があったというので、中井英夫こそ元祖ジュウラニストというものなのでしょうか。
さらに中井英夫の短編集に納められていた後日談の「空しい音ー愛読者をさがす登場人物」では、本編から数年後に登場人物たちが集まっておしゃべりしています。本編では旅立った”あの人”も元気でやっているようで。ここで女性キャラクターの久生に対して本編主人公が「そういえばお前の名前って久生十蘭からとったんだろ?」なんていう問いかけもあります。
そもそも「虚無への供物」は塔晶夫名義で出したものらしいですが、フランス語の「お前は誰だ(トワ・キ)」「おおっ!」の意味と言うので、これまた久生十蘭のフランス語を基にしたペンネームから影響でもされているのか。

そんなこんなで、外連味溢れかつ深淵な十蘭の世界で育った作者が、いわゆる推理小説を超えた推理小説を目指して筆を滑らせてみたのかということでいいのだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ●日本文学
感想投稿日 : 2014年8月29日
読了日 : -
本棚登録日 : 2014年8月29日

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