戦争と平和(二) (新潮文庫)

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本棚登録 : 541
レビュー : 34
著者 :
制作 : 工藤 精一郎 
淳水堂さん 露西亜文学   読み終わった 

二巻は人間描写が多いですね。

ニコライの狼狩、アンドレイとナターシャの舞踏会場面など美しく印象的な描写も多々あり。

 【ベズウーホフ伯爵家】
 ❖ピエール・キリールイチ・ベズウーホフ伯爵:
 二巻最後の方で「ピョートル・キリールイチ伯爵」と呼ばれていたので、ピョートルが本名、ピエールはフランス風自称名なんですね。
エレンとの結婚生活は全読者が想像したようにさっさと破滅へ。
妻の愛人(のうちの一人)ドーロホフと決闘をして、大方の予測に反して相手に瀕死の怪我を負わせるという怒れるマッチョっぷりを示すが、
妻エレンに「あなたのような夫の妻で愛人を持たない女なんて珍しい(”けど私は浮気してないわよ。それなのにまったくのでたらめを信じるなんてバカじゃないの?” と続く)」
「(愛人と噂されるドーロホフは)どこをどう見てもあなたより数段立派」
「私と別れるですって?財産をくださるならね」とまで言われて、財産の半分以上を妻に譲渡して家出。何やってんだ、でもこれがピエール(苦笑)
旅の途中でたまたま知り合ったフリーメーソンの老人を人生の師と仰ぎ、フリーメーソンへ入会。自己研鑽と社会貢献のために自分の領地改革に乗り出すが、成功したのは見かけだけで裏では役人の使い込みとさらに生活苦に追いやられた農奴たちがいることは見えていない。こんなところがピエール(苦笑)。
せっかくフリーメーソンでの立派な演説により尊敬を受けたというのに、意志が弱いとか享楽的な面が出てきてフラフラしてしまう癖から抜けられない。
そこへ社交界から「あの素晴らしいエレン夫人に恥をかかせるなんてひどい夫」とせっつかれて妻の元へ戻り、「聡明で美貌の公爵夫人の変わり者の夫」として社交界で生きていくことに。ほらやっぱりピエール f(^。^)

…とはいっても懐の大きさや視線の広さ、感受性の豊かさ、知識への探求心、そして毅然たる性根なども見せてくれます。

 ❖エレン:
 ピエールの美貌の妻。読者とピエールが見るエレンは高慢で怠惰でふしだらで知恵は浅い姿。しかし社交界が見るエレンはは高貴で高い知識を持ち変わり者の虐げられる気の毒な妻であり社交界最高級の地位にいる女性という姿。
彼女のような人はきっと地下室に”ドリアン・グレイの肖像”を持っているに違いない。(ーー;)

【ボルコンスキィ公爵家】
 ❖アンドレイ・ニコラーエヴィチ・ボルコンスキィ公爵:
 家族の元に、アンドレイ公爵が戦死したと誤報が入ったが、怪我を治して帰宅した。その晩妻のリーザは男児を産んで死ぬ。
父の田舎に籠り、ピエールが失敗した農地改革を成功させる。
言動が現実に即して、ただの机上のインテリではないですね。

そんなアンドレイが舞踏会で踊ったナターシャ・ロストフに対して新たな人生の輝きを見出し求婚、一年後の結婚を約束する。
人生や社会を陰あるものと見ていたアンドレイ公爵が識った光。ナターシャとの恋愛描写は美しい。
普段は斜に構えたアンドレイが、笑う時はとことん笑い、踊るときは踊りを楽しみ、明るく親しげな姿をみせる。
舞踏会の場面は映画(メル・ファーラーとヘプバーン)でも印象的だった。

しかし若い娘さんには、相手に会えない1年間は長すぎた。
そしてそんなナターシャの心情を理解できず、理解しようともしないところがアンドレイ公爵の特徴か。
もう少し柔らかくなれば人生楽なんだけどなあ、と思う。。

 ❖マリヤ・ニコラーエヴナ・ボルコンスカヤ:
 突然ナターシャとの婚約を決めた兄と、ますます意固地になる父に挟まれ苦悩の日々。現世を捨てて神の愛だけに生きたいが、甥(アンドレイとリーザの息子)の養育と、父を見捨てられないという思いからそうもいかず忍耐と苦悩の日々。

 ❖ニコライ・アンドレーエヴィチ・ボルコンスキイ公爵:
 アンドレイとマリアの父。一巻では「頑固で現政治社交界から煙たがられるが、尊敬もされる老人」だったはずなんだが、二巻では娘のマリヤをいびり萎縮させることが目的となり意固地と意地悪に磨きがかかって、現在なら「病院で認知症受診してきてくれ!」な老人となってきてるんだが…。

 【ロストワ伯爵家】
 ❖ニコライ・イリーイチ・ロストフ伯爵:
 戦争の途中休暇で家に帰ったらすっかり家族から大歓迎!事実上の許嫁もいるが、実家は破産の危機のため、持参金の多い娘との婚姻を望まれている。
実家を助ける孝行息子と期待されながら賭博で大負けしたり、狼狩に興奮したり…要するに若さであっちこっち寄り道中。

 ❖ナターシャ・ロストワ(ナターリア・イリイニーシナ・ロストワ公爵令嬢):
 1巻で12歳の天真爛漫な少女は16歳の娘へ。自分を美しいと思わせてくれる男性のうっとりした目線や、輝かしい舞踏会に美しい若い娘としての輝きを存分に発揮する。
舞踏会ではアンドレイ公爵を夢中にさせ、自分も彼を愛していると一年後の結婚を約束する。

しかし精神的に自由奔放、世間は輝いていると思っている娘さんに一年間は長すぎた。
廃頽と淫行のアナトーリ・クラーギン伯爵(ピエールの妻のエレンの兄)の目線と口説きに眩み、アンドレイ公爵も、自分の家族も生活も名誉も、すべてを捨て駆け落ちしようとする。
すんでのところで阻止されたが、すべてを失ったと錯乱…しているあたりで二巻終わり。

 ❖ロストフ伯爵:
 ニコライとナターシャの父。人が良さそうで頼られると嬉しい性質のようで、サロンを主宰するためや、子供たちのために膨大な借金は重なるばかり。

…というので同情していたら、「馬は50頭」「家族以外の食客20人」というので、これで破産の危機というのは現実の生活として理解できない(笑)。

 ❖ソーニャ:
 父母を亡くしたためロストフ家に養われている親戚の娘さん。ナターシャとは親友。ニコライとは事実上の公認の仲のようだけど、若くてまだ道の定まらぬニコライと、破産寸前の我が家を救うためには金持ちの娘を嫁に!と願っているロストフ夫妻からはあまり歓迎されていない様子。

 【クラーギン公爵家】
 ❖アナトーリ・ワシリーエフ・クラーギン公爵:
 ワシーリイ公爵の次男、エレンの兄。この一家には放蕩の精神に流れているが、その父をして家から半追放されるというくらいの放蕩っぷり。エレンとは廃頽の精神で繋がっている。

莫大な散在、借金、秘密の結婚、そしてそれを隠してナターシャを誘惑し駆け落ち未遂。

まあナターシャの信じたとおりアナトーリからナターシャへの「愛」は本物でしょう。しかし本気だからこそ余計に性質が悪い。享楽的で一時的な恋愛のために、嘘を付き、相手の名誉を失墜させ、他者の人生を狂わせることが平気な「愛」なんだから。

怒りのピエールによりモスクワから追放される。

 【他の人たち】
 ❖ボリス・ドルベツコイ
 母からワシーリイ伯爵へ紹介してもらったコネを生かし順当に出世街道へ。昇格のために必要な情報、人脈を察知するのは登場人物でも長けてるほうか。
ナターシャの幼い恋の相手だったが、エレンのサロンで特別扱い受けたり(おそらく愛人?)結婚相手には資産家の嫁を探したり、結局資産家のジュリイ嬢と婚約へ至った。
ピエールはマリア(アンドレイの妹の)に彼との結婚を勧めるけど…結婚相手を出世の手段と思うボリスと大人し過ぎるマリアじゃ彼女に安定はないと思うんだが。

 ❖ドーロホフ:
 ピエールやアナトーリの放蕩仲間だが、エレンと関係したことからピエールを激昂させる。決闘による怪我が治った後、アナトーリとナターシャの駆け落ちに一枚絡む。

レビュー投稿日
2016年8月22日
読了日
2016年8月22日
本棚登録日
2016年8月22日
5
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koba-book2011さん (2016年11月25日)

ちょうど2巻を読み終わりました。
いよいよ面白いですね!
それぞれの人物のダークサイドの描かれ方が、ゾクッとするほど秀逸!

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