Qfwfqじいさんのお話が始まるよ!
むか〜し昔のその昔。Qfwfq老人が星雲のなかに浮かんでいた頃、無限の宇宙空間を何光年も巡っていた頃、光と闇ができた頃、そして地球の月が近くにあったころ。そのころじいさんは、恐龍だったり、星雲だったり、水の生物だったりしてたんだ。どんなかたちでも、出会っり別れたりがあった。今は人間になって文明世界を生きていても、人間は違う生物だったころの記憶を持って同じ気持ちを持ち続けているんだ。
『月の距離』
その頃月は地球におっかぶさっておった。
満月になるとわしらは船を出して月に渡ったんだ、船から手を伸ばすと月の重力に捕まって、くるりと一回転、ほら月だ。
何をしに行ったかって?ミルクを取りに行ったのさ。わしの耳の聞こえん弟は、地球から月の重力に乗り換えるのがそりゃあうまかったもんだ。わしは船長の奥さんのことが気になってたんだが…あるとき奥さんの目はわしの弟を追ってるのに気がついた。女に嫉妬するみたいに、月に嫉妬してたんだ。そんな奥さんが弟を自分のものにするには、自分が月そのものになることだって示したんだよ。
『昼の誕生』
世界は真っ暗でな、自分たちは星雲の砂粒みたいな物質に埋め込まれたみたいにしてたんだ。お祖母さんは、昔は光や熱があっただなんて言ったけど、わしらにはなんのことやらだ。
そんな時に変化が現れたんだ。砂粒みたいな物質が固まり始めたんだよ。すると”もの”ができて、わしらもそれぞれの方向に流されていったんだ。
なあに、数年前に街角でばったり会ったこともあるんだが、すっかり様子が違っちまってたな。
『宇宙にしるしを』
何億年もかけて宇宙を巡っていたんだが、あるときしるしをつけようかって思ったんだ。しるしたってなんにもない宇宙につけるのは”もの”にしるしじゃない、ただそこがそうだって分かるんだ。
宇宙を巡って巡って、いつかその印がまた見つかると思ったんだが、だがわしが見つけたのは別のやつによって壊されて真似されたわしのしるしだったんだ。
『ただ一点に』
星雲が拡散する前のころだったからな、わしら一人一人はおんなじある点にみんないたんだ。そのうえ宇宙を作るための全物質まであったんだ。そこには素敵なご夫人がいた。「もし空間があったらみなさんにスパゲッティを作って差し上げたいわ」と言っていたんだ。
いまでは、拡散していって別れ別れ。たまに議事堂前やカフェで会うことはあるがね、本当に会いたいって思うのはあのご夫人だよ。
宇宙は拡散と縮小をくり返してるってのはどうも納得しかねるんだが、また縮小してあの一点に戻るんなら、ご夫人には会いたい、そしてご夫人が言っていた「空間」のことを考えるんだよ。
『無色の時代』
全部灰色の世界でな、空気がなくって地表には紫外線の世界。わしらは見ることも話すこともなくて、ほとんどお互いに出会うなんてこともなかった。
そんなときにわしは彼女と会ったんだ。
そのころ光ができてきて、世界が色づいた、わしは彼女を光の中で見たいと思ったんだ。
だが彼女が望んでいたのは、今まで通りの灰色の地下の世界、それこそが美だったんだ。
『終わりのないゲーム』
あったのは水素分子だけ。だからわしらは水素アトムを転がして遊んでいた。水素分子が空間の湾曲で転がると新しい自分だけの宇宙ができるかもしれん。わしらの競走は、互いを出し抜いて騙し合っていたんだ。それが昂じて宇宙を駆け巡って分子をぶつけ合う追いかけっこに。
おや、わしの前にあいつがいる、だがわしの後ろにもあいつがいる、そしてわしのうしろのあいつのそのまたうしろにわしがいる。
こうなりゃどっちがどっちを追いかけているのか、永遠に終わらないってことしか確かでない、だが他にやることもなかったからな。
『水に生きる叔父』
もう水の時代は終わりだ。わしらの一族も水から陸に上がっていったんだ。エラ呼吸の時代、柔らかい卵の時代は終わり、足の時代、硬い殻の卵の時代だ。だが、シーラカンス系の叔父さんだけが水に残ってたんだ。
わしには恋人ができた。わしらの一族よりももっと前に陸に上がって進化の進んだ一族だ。
叔父さんに彼女を紹介するのは恥ずかしかった。今更まだ魚でいる叔父さんなんて、陸の彼女にはきっとバカにされる。しかし彼女は叔父さんの話を楽しそうに聞いてるではないか。
『いくら賭ける?』
わしと学部長はなにごとでも掛けをしていたんだ。水素ガスの星雲から何が生まれる?最初に大気圏を作る惑星はどれだ?英国統治下のインド半島における人口増加指数は?今日のアーセナルvsレアル・マドリードは?
わしは物事の細部まですっかり予言できるようになったからな、最初の頃はわしの大勝だったよ。だが付きが変わっていったんだな。
『恐龍族』
わしのような恐龍族の生き残りはもういなかった。恐龍族は伝説になってたんだ。彼らはわしをみて「恐龍が出るぞ」なんて言った。わしをみて恐龍だと分からないくらいに、恐龍は姿を消していたんだな。
ある時恐龍族の血を引く新人類の娘を見たんだ。わしらの面影をしっかり持ち、新しい村に馴染んでいる娘の姿をな。
『空間の形』
落ちるって行ったら、空間を頭をしたにして硬いものにぶつかるって思うだろう。だかわしらは宇宙空間を漂っていたから、どっちに落ちているんだか、そもそも落ちているんだが上昇しているんだか停まってるんだかも分からんもんさ。
わしと並行にほかのやつらもいた。わしが気を引きたかった美女、その美女の気を引きたがってる気取り屋中尉。
わしらはずっと並行なままで、それでも交差しようと試みてたんだ。絶え間なく落ち続けながらな。
『光と年月』
わしはいつもの通り天体望遠鏡で観測を続けておった。すると一億光年の距離にある星雲から一本のプラカードが出てルノが見えたんだ。<見タゾ!>その星雲の光が一億後年かかってわしの目に届いたなら、その星雲がわしを見たのはその一億年前ってことになる。二億年前?そうだ、わしが隠そうと、忘れようとした恥ずべき出来事を起こした日に間違いない。あれを見たというメッセージにわしはどうやって答えれば良いんだ?
その二日後に、一億光年と一光日の距離にある星雲からも<見タゾ!>のプラカードがあがった。数日後には別の星雲から、数日後にはまた別の星雲から…
わしの恥ずべき出来事を見たのなら、その後のわしの善い行いも見ているんじゃないのか?ほら、十万年前のあの素晴らしい出来事をどこかの星雲が見ていないか?
その日からわしは、星雲への返事のプラカードをあちこちに向けねばならなくなったんだ。
『渦を巻く』
そうだな、海の岩にくっついていたころは、形もなく、目もなく、ただそこにいた。だが彼女を認知した。
人間になった今でもまだ彼女を探してる。今度は目で。
目は彼女を探すために見ることを認知してできたんだ。だがその目はわしだけでなく他の生物も持つようになったんだ。
- 感想投稿日 : 2023年3月18日
- 読了日 : 2023年3月18日
- 本棚登録日 : 2023年3月18日
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