ピーター・スワンソンを読んだ2作目。
大のお気に入り作家というのではないので、立て続けに読んではいないのですが、広く振り返ってみて、けっこういいなと感じている今日この頃(笑)

ロンドンに住む若い女性ケイトは、ボストンに住む又従兄のコービンがロンドンに来る機会に、半年間、部屋を交換することにした。
ケイトはなぜか子供の頃から不安感が強い少女だったのだが、恐怖に取りつかれるのも無理のない事件にも遭遇していた。
訪れたアパートメントは凝った造りで、新たな地でしばらく平穏に暮らせると思ったのも束の間、隣室に住んでいた女性オードリーが殺される事件が起きる。
知り合ったばかりの人たちはそう悪い人に見えないが、言っていることが本当なのかどうかはわからない。
この中の誰かが犯人ではないのか。

ヒッチコックのスリラー映画を思わせるような、たたみかけるような恐怖。
こんな感じ易いヒロインはどれほど生きづらい事だろう。
「そしてミランダを殺す」は誰にも共感できない話だったので、それに比べると、ヒロインにも同情するし、いい人も存在する(笑)
ひととき、夢中になって楽しめました☆

2024年9月6日

ワシントン・ポーのシリーズ、3作目。
英国カンブリア州の荒涼たる自然を背景に、国家犯罪対策庁の重罪分析課の面々が活躍します。

切断された人間の指が、思いがけないところで次々に発見される事件が起きた。
動機も推測しがたいが、猟奇的な事件とは予想されます。
ポーは人里離れた土地に家を持ち、性格は丸くないが、現場で培った勘と粘り強さを持ち、重要な事件を解決に導く凄腕。
地道な捜査でじりじりと事件の様相を確かめていきますが‥
予想を超える背景が浮かび上がる。

上司のフリン警部は、体調のため休職するが、事件となれば出張って来ずにはいられない。
分析官の若い女性ティリー・ブラッドショーがポーの大事な相棒で、信頼関係はさらに深まっている様子。
天才といえる頭脳の持ち主だが、世間知らずで人間関係には不器用、空気は読めない。世間の汚れた空気なんか理解しなくていいと言いたくなる純粋さ。
古いタイプの警官ともいえる孤独がちなポーと、心通い合うのが胸を打ちます。

人を誘い込むネット犯罪のやり口、一部は現実に似たようなことが起っている?恐ろしさ。
さらに、理解しがたい動機‥
迫力のある展開に唸らされました。

2024年9月6日

伍尭國(ごぎょうこく)という架空の国が舞台の、中華風ファンタジー。
中国のどこかいつかの時代というより、和風の要素なども取り入れられています。

伍尭國の北の地・玄武で、医師に育てられた孤児の少女・董胡は男装してまで医学を学び、優秀な成績を収めていた。
ついに合格して証書を受け取りに領主邸に行ったら、実は行方知れずだった玄武の姫であると言われて、運命が一転。
しかも、皇帝への輿入れを命じられてしまう。

何とかして脱走しようと思いながら、宮中へ入った董胡。
皇帝には、四つの国から一の姫がそれぞれ妃として入内し、寵愛によって扱いが随時変わるというしきたりだった。
しかし、若い皇帝は妃たちにあまり関心を示さず、妃たちの方もそれぞれに事情があり、一筋縄ではいかない。
どこかで聞いたような、そうでもないような?
ああいうのがもっと読みたい!という需要もあるわけだから、一部にあるある設定があっても、それはアリなんじゃないかと(笑)

董胡が女ながら医師を目指したのは、以前出会った病気がちな若者レイシに憧れ、薬膳で健康にしたいという強い願いがあったからだった。
妃の薬膳師として、食事をふるまった董胡は、体調が悪いという口実で妃の姿を見せないまま、皇帝に気に入られる。しかし男装で医学を学んだ禁忌を犯したのは罪、バレるわけにはいかない。
妃と同一人物であることを隠すためにも、悪戦苦闘する羽目に。

ちょっとごちゃついている部分があり、一人二役が三役になっていくなど、ここまでしなくてもという感じもありますが。(これ実はたまたま4巻から手に取ったので、わかりにくかった、という、こちらの印象もあるけど)
ヒロインは素直で熱意のある、いい子なので、気分良く読めます。
脇役や国の対立がどのような展開を見せるのか?
表紙イラストも感じがいいですね。
楽しみなシリーズを発見☆

2024年9月4日

大光国という架空の国が舞台の、中華風ファンタジー。
ぼんやりしている女官が、事件が起きると、意外な才能を発揮します。

大光国の後宮で、「死王」が生まれたという騒動が起きる。
不審な亡くなり方をした妃の棺に、赤子の死体が見つかったのだ。
美貌の宦官・延明は、皇后の命を受け、事態の収拾を図ることになった。
侍女の桃花は、普段は居眠りばかりしているのだが、死体を前にすると別人のようになって鋭い指摘を繰り広げる。
実は、桃花は検視官の家の出で祖父に仕込まれており、父の命でやむなく宮中に上がったが、いずれ年季が開けたら検視官と結婚して仕事に参加するつもりでいました。

名家の出で、冤罪により宦官とさせられた苦しみを抱えた延明。
誰もがときめくようなその美貌にも、全く動じない、ちょっととぼけた桃花。
何となく聞いたことがあるような、ないような?
事件についての書きっぷりはリアリティがあり、先を楽しみにさせる力があります。
何となく、入り込めないようなものも感じたのですが、それが何かはだんだんわかってきました。

2024年9月4日

人気の「ワニ町」シリーズ、はや6作目。
お話の中では、大して日が経ってません!けどね(笑)

フォーチュンは、CIAの秘密工作員だが、暗殺されそうになり、田舎町に潜伏。
ルイジアナのシンフルは、町の中を流れる川を時々ワニが泳いでいるような、一見のどかな小さな町だった。
夏の間だけ、図書館の司書が大叔母の遺残整理に来たという設定だったが、フォーチュンが町に来た途端、なぜか次々に事件が起こり始める。

アイダ・ベルは陰で町を牛耳っているしっかり者の高齢女性、相棒のガーティはおっちょこちょいで色々やらかすけど、かっては二人とも軍にいた強いおばあさんズなのだ。
すっかり仲良くなった3人は、事件に首を突っ込み、屋根を乗り越え、ボートで暴走することに?!

町長となった嫌味なシーリアが、ご長寿の保安官を罷免して、いとこのネルソンを任命。たちまち、町は何かと滞り始める。
そこへ爆発事故が起き、密造酒の製造所と思われていたのが、覚せい剤に関わっていたと発覚。
深刻な事態に、スワンプスリー(上記の3人組)がほっておけるわけもない。
保安官助手で実質的に仕事を切りまわしていたカーターは前回の事故で休職中、何しろあまり日が経っていないのだから(笑)

フォーチュンが手に入れた新しいボートに、スピード狂のアイダ・ベルが大興奮、一方ガーティは違う風に大はしゃぎで、大変なことに‥(笑)
どんどん話が進み、小説で声を立てて笑っちゃう、って貴重。
シリーズが続いてくれることに、本気で感謝しておりますよ☆

2024年9月4日

お菓子探偵ハンナのシリーズ、24作目。
常連さんが一座で年に1度の興行~という感じのコージー・ミステリです。

故郷のレイク・エデンで、手作りクッキーの店「クッキージャー」をやっているハンナ。
自分のアパートが事件現場になったため、長い付き合いのノーマンの家に滞在しています。
歯科医のノーマンはただの友人以上の存在だが、結婚に破れたばかりのハンナは、彼の優しさを素直に受け入れつつ、これ以上の関係にはなれないという。

バスコム市長のところに、ハンナの妹アンドリアが夫のことを頼みに来て、最初は丁寧なのだがついに‥?という所から始まります。
評判の良くないバスコム市長がその後、事件の被害者に‥!
容疑のかかったアンドリアを守るため、ハンナも解決に立ち上がります。
バスコム市長は嫌われ過ぎていて、容疑者が多すぎ。かと言って、殺すほどかと言うと‥?
長く続いているシリーズで常連さん多いのですが、事件に関連して消えた人もいる~事件は2か月後に起きたりしているので、そこまで年取ってはいないのかな‥

母親は性格強い美魔女、妹二人も小柄な美人。ハンナだけが亡き父親似で大柄で赤毛、美人ではないのだけど、頭がよく親切で料理上手。という設定は変わりませんが。
母は再婚していて、上の妹アンドリアは少し料理が出来るようになっていたり、下の妹にも恋人が出来ていたり。
ハンナが結局誰とくっつくの~?という興味もありつつ、まあ決まらなくてもいいか‥(笑)

大量の甘いものと、甘くない美味しそうなもの少しのレシピを楽しみつつ。ユーモアと人情味とスリルをご賞味あれ(笑)

2024年6月22日

のどかな観光地で暮らす高校生たち。
主人公には、母親が二人いるという、ちょっと複雑な事情があるが?

山と海に囲まれた餅湯温泉。
怜は、高校2年生男子。
家は商店街のお土産屋で、シーズンにはまあまあだが、オフにはあまりお客も来ない。
高台の別荘地にはお金持ちが暮らし、怜は月に一度はそこにある家の「お母さん」に会いに行く。
土産物屋の寿絵と高台の邸宅に来る伊都子のどちらかが生母なのだろうが、はっきり聞くことも出来ないまま。
それで当たり前に暮らしてきたが、進路を決めるとなるともやもやし始めた。
これと言って、得意なこともやりたいこともないのである。

美術部員のマルちゃんは喫茶店の息子で、竜人は干物屋の息子という商店街の幼なじみたち。竜人は運動神経抜群で、GFとラブラブなのが知れ渡っていたり。老舗旅館の跡取りの藤島というメンバーも加わって。
心平の作った土器の騒動やら、ちょいおバカな男の子たちの繰り広げる騒動がおかしくて、楽しい。

いたことのない父親はま~ろくなもんじゃないだろうと思っていた怜だが、ある日それらしい男を見かける。
商店街の住人は皆事情を知っていて、怜たちを見守ってくれていた。
のほほんとした雰囲気の温泉町のあったかさに、ほのぼの。
ものすごいことは起きない、平和な暮らしの大切さ。
読んでいて、愛おしくなります。

2024年2月15日

読書状況 読み終わった [2022年6月9日]
カテゴリ 国内小説

高校生が自由研究の課題として、地元で起きた事件を探求していく。
自由研究でという設定の斬新さと、このテーマの難しさ。
日本と違う英国の事情も興味深いです。

ピップは明るく、聡明な女子高生。
グラマースクールの最終学年で、ずっと気になっていた5年前の殺人事件を課題に選ぶ。
アンディ・ベルという女子が被害者で、疑われた恋人のサル・シンが自殺したことで決着を見ていたが。
サル・シンと知り合いだったピップは、彼が犯人とはどうしても思えなかったが、世代が違い、詳しいこともわからなかったのだ。

シン家を訪ねて、サルの弟ラヴィの協力も得て、周囲の人に聞き込みを始める。
そうしたら次々に、表に出ていなかった事情があるらしいことがわかってきて、身近な人たちに疑いを持たざるを得なくなる。
ピップは果敢に一つ一つ確かめていくのだったが‥
 
ピップの変わった名字フィッツ=アモービは、ナイジェリア人の義父の名。
義父と母と異父弟とのあたたかな家庭あってのピップだね、と思わせる。
ラヴィもまた、兄の死でひどく苦しんでは来たが、本来は優しく穏やかな人柄。

小さな田舎町に渦巻いていた邪悪さ、隠し事、悲しい行き違い。
予想できない展開が、メールや調べたことを整理していく様子で、軽快に描かれ、ヤングアダルトの雰囲気も。
事件の内容は大変なことだけれど、まっすぐな若さに引っ張られ、気分良く読み終えることが出来ました。

この続きがあるというのが、もちろん期待はするものの、ちょっと心配にも‥
高校生で何度も殺人事件に関わるのもどうなってしまうのか、そうではないのか?と読んだ後に思いめぐらしました。
もう3作目も読みましたが、そうだったのか‥
作者の思いにも胸をうたれました。

2024年2月15日

ミステリではありますが、大自然の中、ゆったりしたテンポで進む小説。
そのリアルさで、胸に迫ります。

シカゴで警官をしていたカルは次第に熱意を失い、離婚し、職を辞めて、父祖の地アイルランドに移住してきた。
人里離れた廃屋をわざと選んで、補修しながらの暮らし。
村人とも少しずつ交流が始まるが、まだ互いに手探りで、ペースが合わないでいた。

ある日視線を感じ、男の子が覗いていたと知る。
少し離れた所に住むトレイという子で、みすぼらしい格好が気になり始める。
何気なく手作業を見せたり、教えたりするようになっていった。
このトレイは、仲のいい兄が失踪したので探してほしいという望みを実は抱いていた。
困惑しながらも、放ってはおけないカル。
兄というのが、自分で勝手に出て行っただけとも考えられたが‥

愛し合っていた妻にとうに見限られ、それでもいまだに以前の感情がよみがえったり。
娘のことが気になって仕方がないが、もう子供ではないと突き放されたりしつつ。
閉鎖的な村の住人との付き合いも、近づきかけては不穏な気配が立ち込める。

必死で愚かな人の営み、精一杯でみみっちいすべてが、立ち向かいようのない自然の一部であるかのように。
取り返しがつかないことも、絶望ではなく、大きな流れの中に。緩やかにおさまっていく‥

2024年2月14日

明治大正風のファンタジー。
虐げられて育った美世は、冷酷な軍人と噂の清霞と、晴れて婚約したが?

斎森美世は、強く美しい清霞に惹かれ、ふさわしい女性になろうと願い、勉強を始めます。
斎森家も名家の方だったが、召使い以下の扱いを受けていたので、礼儀も知らず教養もない。
清霞の姉で明るい性格の葉月が先生になってくれたのはよかったのだが。
夜は悪夢で眠れず、懸命に頑張る美世だったが、心配する清霞の気持ちともすれ違ってしまう。

ある日、美世は母の実家の人間と会い、知らなかった事情を聞くことに。
美世の母は、薄刃という表には出ない異能者の家系の出で、見込まれて斎森家に嫁いだが、異能のある子を生めなかった。
ところが、美世には実は異能の才があるという、驚くべき事実が。そして‥

設定の構築が前よりもわかってきて、キャラクターそれぞれの位置づけもはっきりしてきました。
以前よりはよほど良い環境のはずなのに、ぱっと見は陰気で体調も崩してしまう美世、あぁあぁ~
ま、解決しますから、段階的に(笑)
運命に翻弄されながらも、勇気を出して、一歩ずつ前へ進む美世。
胸キュンも一段ずつ☆

2024年2月14日

明治か大正かという雰囲気の和風ファンタジー。
異形という存在と戦う設定があるが、本筋はラブストーリーですね。

斎森美世は名家の生まれだが、早く母を亡くし、継母と義妹に虐げられて育った。
使用人以下の扱いだったが、ある日突然、嫁入りが決まる。
気難しいという噂の軍人の家に、婚約者の候補として送り付けられた。
帝都で対異特務小隊を率いる久堂清霞は、優秀だが怖れられていて、縁談が次々に壊れているという噂だったのだが。

家は郊外にあり意外と質素で、働いている人間も少ない。
内気で世間知らずな美世は、そっけない清霞の態度にびくびくするが、働くのには慣れているので、進んで家事を手伝う。
ろくな着物も持たず、顔色が悪い美世を不審に思う清霞と家政婦。
これまでの令嬢は、辺鄙な地での質素な暮らしにすぐ音を上げていたのだが‥

口数が少なく不器用だが、強いだけでなく、若く見目麗しい清霞。
自己肯定感が低く弱々しいが、真面目で素直な美世。
しだいに心通わせていく二人だが、そこはごくゆっくりとしたペースで。じわじわ~と甘く(笑)

ファンタジー設定の部分も、この先に大きく動いていくようです。

2024年2月14日

19世紀末のイタリアを舞台に、お針子の女性の人生を丁寧に描いた物語。
失われていく世界を記録したいという思いあっての作品だそうです。

祖母以外の家族を病で失い、祖母に裁縫を教え込まれた「私」。
当時の階級社会で、お針子は決して恵まれた立場ではないが、腕が良ければそれなりにいい仕事だった。
お邸に出向いて白いリネンで作るシーツやナプキン、ブラウスや寝間着など一切を縫い上げる。
具体的に詳しく描かれていて、目に浮かぶようです。
明るく無邪気なエステルお嬢様とは仲良くなり、その結婚のいきさつを見届けることにもなった。

慎ましく生真面目で、丁寧に仕事をする主人公のすがすがしさ。
自分で縫った服をきちんと着ている彼女の清潔感ある佇まいに、優しい若者が惹かれるのもよくわかります。
ただし、その若者は、大金持ちで偏屈な高齢女性の親族で、身分違い。
思わぬ波乱に見舞われながらも、生き抜いていく姿に心励まされます。

19世紀末のイタリアについてはあまり知りませんが、映画ならヴィスコンティ監督作品がありますね。
英国のドラマなら、「ダウントン・アビー」よりも少し前からということになります。
労働する階級は低賃金でこき使われ、上流階級の美しいものを作ったり手入れしたりすることに人生を捧げていた。
その技術は失われつつあるようですが‥
暮らしや立場が良くなったのなら、それもよし。
けれども現に、途上国での労働搾取という問題もあり、一筋縄ではいかない事なのですね。
読み応えのある作品でした。

2024年2月1日

図書委員の高校生二人組が、持ち込まれる謎を解いていく連作短編。

堀川次郎はたまたま図書委員として一緒になった松倉詩門と何となく気が合い、当番を一緒にやっている。
性格は違い、最初は距離もある二人。
背が高く顔のいい松倉にちょっとコンプレックスもある堀川の、「ほどよく皮肉屋」と松倉を評するセンスもなかなかですね。

平凡なようでそうではない堀川と、そんな堀川を幸せな奴だと感じているような、ちょっと陰がある松倉。
ある日、図書委員を引退した先輩女子が、家の問題の謎を解いてくれと依頼してくるが。
行って見ると、どこか不審な気配が?

日常の謎から、犯罪と言えるもの、自身に関わるものまで。
バラエティありながら、ひと気が少ない図書館の雰囲気をどこか漂わせて。
高校生にしては落ち着いていて知的で、でもやはり初々しさもある二人の様子が新鮮です。
切なさも含むラスト。

2024年2月1日

「ワニ町」シリーズ、5作目。
田舎町に隠れ住む女スパイが大騒動に巻き込まれ?
楽しく笑えて、大好き☆

CIAの工作員フォーチュンは、正体がバレて命を狙われ、町を流れる川にワニがいるような小さな町シンフルに身を潜めます。
ごく普通の司書の身元を借りたのです。
ところが、なぜか事件続き。
陰で町を牛耳るしっかり者のアイダ・ベルと、その相棒でおっちょこちょいのガーティというパワフル高齢女性二人組とタッグを組み、秘かに解決のため奔走することに。

保安官助手のカーターとの初デートにやっと成功したフォ-チュン。身元を偽っていることに悩んだり。
只今同居中のアリーは、フォーチュンにとって初めての友人。
すごい料理名人なので、思わずプロポーズしちゃうくだりも楽しい。

カーターが狙撃されて船が沈み、目撃したフォーチュンは迷わず湖に飛び込みます。
さすがのフォーチュンも助けられるかどうかわからない危機一髪。
ちょっと足が速いぐらいの綺麗な司書だと思っていたカーターは、すご技に仰天。
しかし、誰がなぜ保安官助手を狙撃などする?

町では町長選挙に、アイダ・ベルたちの宿敵シーリアが参戦、しかも有利に展開させます。
この危険が迫る中、老いた名物男の保安官が存在感を見せたり、ビッグとリトル再び、猛犬の追撃、ガーティのとんでも衣装と、枚挙にいとまのない出来事が!
めっちゃ面白く読めました~☆

2024年1月31日

大食いで縁遠かったヒロイン・はなの家に転がり込んできた男・良太は。
気軽に読めて、美味しそうな、お江戸人情小説シリーズです。

鎌倉の山の中で一人、畑を耕して暮らしているはなは、28歳。けっこう綺麗なのだが、あまりの大食いのため婚期を逸していました。
ある日、旅の途中で追いはぎに遭ったという良太が、勝手に家に入って料理をしていた。
悪い人間には見えなかった良太を、しだいに受け入れていくはな。
ところが、ある日突然、良太は姿を消す。

いなくなった夫を探しに江戸へ向かい、訪ね歩いたが、空腹で倒れてしまう。
小石川御薬園の同心・岡田弥一郎の紹介で、喜楽屋という一膳めし屋で働くことになります。
この岡田様、冷たい目つきで口も悪いが、何かと騒動を起こすはなを紹介した責任上見張ると言いつつ、いざという時には助けてくれたりして。

喜楽屋の店主おせいは夫を亡くしていて、季節の美味しい料理を出しながら、店を訪れる面々の悩みをはなと一緒に解決したり。
猪突猛進だが、明るいはなは、店の常連さんとも仲良くなっていく。
さて?

2024年2月1日

猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズ、13作目。(電子書籍を別にすると12作目)
「鷹の王」に続く作品。
今作から版元が創元推理文庫に代わって、引き続き発行されてます。

ジョー・ピケットは広大なワイオミング州で、国立公園を管理する仕事を愛し、大自然に日夜触れている男。
一見ごく普通の善良な人物だが、小さな兆候も目に留め、どんな難題にも愚直なまでに対処し、逃げることなく突き進む。
その結果、豪放な知事には信頼されているが、与えられた車両は何度も大破、堅苦しい上司とは反りが合わない。

環境保護局から、裁定指令を持ってやってきた役人二人がいた。ジョーの知人のブッチの所へ。彼らはなぜか、武器を所持していた。
ところが、死体で発見され、ブッチは最有力容疑者に。
ブッチは工務店を営む寡黙な男で、ジョーの娘ルーシーの親友ハナの父親だった。
たまたまブッチに出会っていたジョーは、事態に不審を覚えます。

環境保護局のバティスタという癖のある人物が強硬策を取ろうと躍起となる。命令を受けた捜査官アンダーウッドは、慣れない乗馬用の馬に乗った部下らを従え、険しい山中に分け入るのだ。
ジョーはブッチの命を守ろうと同行することに。

一方、妻のメアリーベスは、かっては有名だったホテルを改築し再開発するという企画に乗りますが、そちらにも難題が起こります。
8月半ば、前作から1年近く経ち、1作目からは13年ほどになるそう。(シェリダン7歳だったもんね。)

ブッチに賞金が懸けられたと聞いた元保安官マクラナハンは案内人と銃の達人を連れて、ブッチの居所を探しに向かう。
ジョーの宿敵ともいうべき強欲なマクラナハンと、いい加減男の案内人、おまけに銃を撃ちたくて仕方がない男まで加わった大混乱。

そもそも環境保護局がブッチに押し付けてきた難題が非情過ぎて、先を読みたくなくなるほどなのだが。
いえ、どんどん意外な展開していきますからねえ~(笑)
事件は実際に起きた出来事を反映しているそう。
経過はもちろん一捻り二捻りしてあり、森林火災まで起きて、大自然の中での決死の脱出行となる大迫力。

家族が晒される苦悩には、胸苦しくなりますが。
善意の折れない強さ、互いを守ろうとする熱い思いが切ない。
レベルの高い作品が続くことにも感嘆します。

2024年1月20日

朝井まかての大奥もの、というか、幕末ものでしょうか。
仕事に生きてきた女性たちの、江戸城最後の日を描きます。

江戸城の無血開城が決まった後。
天璋院篤姫が出立前に一同を集め、粛々と城を出ていくように諭します。
荷物はすべて後から送ってくれるはずだからと。
天璋院が去った後、奥勤めの女中たちは皆右往左往して、出来る限り荷物を持って我先に出ていくのでした。

呉服之間に勤めるお針子だったりつは、もう一度部屋を確かめたくなり、戻ります。
お蛸という女中が天璋院の猫を追いかけているのに出くわし、一緒に捜し歩きます。
すると、ちかという女中もまだ残っていました。
さらには御中臈のふきと、和宮のほうの呉服之間に仕えていたもみぢがいました。

御中臈のふきは、りつなど顔を見たこともないほど雲の上の女性。憧れの存在です。
もみぢは、会ったことこそないけれど、呉服之間には腕利きがいると聞き及んでいました。
5人の女性が残った理由。
まだすぐには去ろうとしない理由は。

大奥というと、美しい女性が豪華な衣装で上様に侍るイメージですが。そういう女性は数限られていて、実際はその世話をする組織で働いている女性が多い。
キャリアウーマンの集まりでもあったのでした。
その職場が失われるとき。

無念さやこだわり、別れを惜しむ気持ち。
突っ張っていたのが、しだいに打ち解けて語り合い、2日目を迎え‥
荒々しく乗り込んできた武士たちを物陰から見る。

後の世にまた再会するエピローグが、とても素敵です。
お気に入りの作品になりました。

2024年1月19日

貧乏お嬢さまシリーズ、15作目。
「貧乏お嬢さま、追憶の館へ」の次の作品。
「貧乏お嬢さまのクリスマス」の1年後のクリスマスだそうです。

公爵令嬢だが実家が破産し、お金に困っていたジョージー。
晴れてダーシーと結婚し、相変わらず互いにあまりお金はないものの、元義父(母の再婚相手だが離婚した)の好意で、留守になっていた大きなお屋敷アインスレーに住んでいます。
地元ではいわば領主みたいな存在なので、村人と交流したり、クリスマスには子供たちにプレゼントを配ったり、それなりに役割があるのでした。
クリスマスをどうするか、お客を呼ぼうと考えて、理想のクリスマスを思い描くのですが‥

ダーシーの伯母から招待状が届き、しかもそこは王家の別邸サンドリンガムの敷地内。
王一家がクリスマスを過ごす土地なので、暗に王妃の命令とも受け取れます。
家に来ていた客たちもろとも、現地へ向かうジョージー達。
そこで、意外な事件が次々に‥?!

王様や貴族たちのクリスマスの過ごし方がいろいろ出て来て、そういう描写を楽しめます。
クリスマスには国王がラジオで演説をするのでした。
皇太子はシンプソン夫人との結婚を考えている時期で、それが実はまだ英国内では全然報じられていないという。
当時は、マスコミを押さえられたんですね。

時代色と、ジョージーらしさ、英国のクリスマス気分も味わえて、面白く読めました。

2024年1月18日

深川で菓子屋を営む兄と弟。
仲が良く、地道に幸せをつかんでいくので、ほのぼの読めます。

兄の光太郎は美形で人当たりが良く、根付師だった父親の跡を継いでいるはずだった。
弟の考次郎は、子どもの頃に大火に巻き込まれて、大やけどを負ったせいもあって、内気で不器用な性格。
菓子作りの才能はあったのだが、奉公先で跡継ぎと上手くいかなくなり、片隅に追いやられてしまった。
そこへ、兄が迎えに来る。
深川で店を出す準備を整えてきたと。

そんなお兄さん、いる~?と感動(笑)
助っ人には、食いしん坊なお七が登場、売れ残りが多いと貰えるので喜ぶっていう大食いさんですが(笑)
何かとちょこちょこ問題はありつつも、一つ一つ協力して解決していきます。
お菓子も、一つ一つ、新作が作り出されていきます。
胸に秘めた思いや、事情のある美女を相手にじわじわ進む恋模様も。

そんなに長くはないので、さらっと読める人情話。
3作で完結しているので、全体でも軽めに、あまり長丁場に取り組もうと気が起きない時に?楽しめますよ☆

2024年1月18日

海賊に拉致された料理人の運命は?
波乱万丈で泥臭くドラマチックで、どっちへ転ぶかわからない、珍しい雰囲気の作品です。

1819年のイギリス。
貴族に仕える料理人ウェッジウッドは、突如別荘に乗り込んで来た海賊団に雇い主を殺され、ついでに拉致されてしまった。
迫力ある美人の女海賊マボットから、週に一度、マボットのためだけの本格的な料理を作るように命じられる、「命が惜しければ」と。
優雅な暮らしで繊細なテクニックを身につけてきたウェッジウッドだが、海賊船にはろくな材料も器具もない。
既に中年で妻を亡くして気落ちしていた彼は、荒くれ男たちの中に放り込まれて絶望しかけていたが‥

運命を呪いながらも、必死でましな物を作るうちに、しだいに信頼関係が芽生えていく。
めちゃくちゃに見えたマボットも、ある目的を抱いて行動していることがわかり、感動するウェッジウッド。やがて‥?

命の危機にも何度も見舞われながら、情熱的に進んでいく物語。映画にしても良さそうです。
面白かった!

2024年1月18日

五代将軍綱吉と言えば、生類憐みの令で、評判が良くないのは広く知られているところ。
その時代と、綱吉の真意は?
新たな角度から描いた作品です。

五代ともなれば世は穏やかで繁栄しているというイメージがありましたが。
当初はそういう空気でもなく、過渡期だったのかもしれない。
将軍になるとは思わずに育った綱吉は勉学好きで、理想主義者。
戦国時代の荒々しさが残る世の中を憂い、命の大切さを説こうとしていた。
動物愛護の精神まで先取りした先駆者だったのではないかという。
そんな彼を理解していたのが正室の信子。公家の出で教養はあるが、大らかで形式ばってはいない女性。

生類憐みの令は、跡継ぎに恵まれない綱吉が、母親の干支である犬を大切にすることで子が出来ると信じたという、今から見ればマザコンで、迷信に振り回されたという印象がありましたが。
実は夫婦睦まじく、自立していたイメージに塗り替えられていて、感じよく読めます。
ただそれが史実だったのかどうかは‥

極端な政策に、人心を読めない面があったのは、否定できないところではないかと。
その辺はガーッと通り過ぎていく描き方でした。
御台所との関係も、仲がいい時期はあったかもしれないが、結末は悲劇に終わった説の方が説得力あるような気がします。

ただ綱吉本人が本心目指したものは、高邁な理想だったのかもしれない。それはあり得ることでしょう。
将軍の立場の難しさ、それは端からはわからないこと。
政策も施行への段階のどこでどう歪んでしまうか。
今も昔も、上に立つ者は意外と辛い?!

2024年1月18日

大怪我で記憶も失っている元夫のもとに駆け付けたヒロインは‥ これぞ、ロマンティック・サスペンス。

ジェイは真面目なキャリアウーマンだが、よりによって職を失った日に、FBIの訪問を受け、元夫の顔を確認してほしいと依頼される。
5年前に別れた夫スティーブは事故で火傷を負い、顔も身体も包帯でぐるぐる巻き、身体は動かせないし、記憶も失っているらしい。
ジェイは衝撃だけでない何かを感じて献身的に看病するが、かすかな違和感も覚えていた。
しかも、元夫はどうやら諜報員。
彼の記憶が事件の原因や、今後の事態を予測する鍵になるため、協力して欲しいと頼まれる。

記憶を失ったヒーローの方は、昏睡状態からゆっくり目覚めていき、付き添ってくれている女性にほとんど本能のように恋をする。
元妻らしいのだが記憶はなく、なぜ別れたのかと後悔が募るばかり。
動けず記憶もないという特殊な状況からのスタートを描いていくリンダ・ハワードの筆さばきは、さすがロマサスの女王。

ヒロインのジェイは一途で賢く、事情を推理しながら、嘘をついてまでもヒーローに寄り添う。
回復すれば、超人的な能力を誇るヒーロー。
行き違いと危機を当然、乗り越えて。
内容の割にちょっと本が薄い、のだけが不満だわ(笑)

2023年10月26日

大江山の鬼退治という童話のような伝説ともなっている話を、リアルでありながらファンタジックに、生き生きと描いた小説。

平安時代。
中央集権が進み、宮中文化が栄えた平安時代は、平和でも安心できる世でもなかった‥?
安和の変が起きた962年に物語は始まります。
京の都にも、ほど近い地域にも、「童」と呼ばれる、朝廷にまつろわぬ者たちがいた。「童」というのは、子供という意味ではなく、鬼、土蜘蛛、夷、滝夜叉、山姥などをまとめて蔑んで呼ぶ言葉。
一方的に蔑む権力者に対抗して、乱が起きたのだが、あえなく鎮圧される。
安倍晴明は、皆既日食を凶事と断じ、ゆえに恩赦が出るように事を運ぶ。じつは童と通じていて、囚われた彼らを救ったのだ。

この年この日、越後で桜暁丸(おうぎまる)が生まれた。父は郡司で、流れ着いた異国の女性との間に子をなしたのだ。夷を差別しない人柄だったが、京に目をつけられてしまう。
桜暁丸は父と故郷を喪い、「花天狗」という盗賊となった。のちの「酒呑童子」この童子という名が子供という意味ではなかったわけです。

跋扈する盗賊や、表には出ずに山で暮らす人々との出会い。
それぞれの強さと意気地、はかなさとしぶとさ。
影に日に活躍する女性たちも魅力的です。
実在する人物も、伝承を思わせる内容も出て来て、その描き方がスピーディで熱っぽく、きらきらと輝くよう。
引き込まれて一気読み。

史実でこれほど大規模な闘いがあったのかどうか。
平安時代については、数字的なことがよくわからないのだが。
赤い血の流れる同じ人間でありながら、秩序になじまないという理由で、否定する。
元はそれぞれ離れた土地で、その土地なりに暮らしていただけなのに。

世の制度が整っていくときに起きる残酷さ。
時代の流れとはまた別な、異なるものを排除する心理。
現代でも、根深く、あちこちで起きている現象のようにも思います。
せめて、極端な差別や争いを起こさない方向へ、進んでいけたらと願うばかり。

2019年初読。2023年、文庫で再読。

2023年10月14日

ある日、出会った美女に殺人を持ちかけられたら?
しゃれたタイトルと、あらすじ紹介の2行目で想像したのと似たようなタッチの作品ではありましたが。
展開は予想外で、クール!

空港のバーで、テッドは知り合ったばかりの美女リリーに妻が浮気していると喋り、殺したいと口走ると、当然だと言われる。
妻の名はミランダ。
まさかと思いつつも、再会を約束する二人。

リリーというのが実は、普段は地味な勤めをしている目立たない女性。
テッドは企業家で大金持ち。
ミランダは美人だが気が強く、わがまま。
とはいえ、殺されるほどのことをしているかと言うと、そうでもない。

ただ、現実にも出会ったら、「嫌だな」と思うだろう‥
そういうタイプの存在を、さっくり殺してしまう、というのに、ちょっと笑ってしまうブラック・ユーモア。
動機としては弱いので、罪を犯してもバレず、すぐは捕まらないでいるのも。
こんなことを実行する人間は、普通ではない、サイコパスに違いない。
でも、「嫌だな」という気持ちの中には「こんな奴、いない方がいい」という考えも混じっているかも?
いや、あくまでフィクションなので。

ダークめな犯罪小説だが、視点が変わる面白さや意外性ある盛り上がりがスマートに描かれています。
ミステリの各賞で2位と上位だったのは納得です。

2023年10月14日

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