文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

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レビュー : 1522
著者 :
消息子さん ミステリ   読み終わった 

 15年ぶりくらいで読み直す。
 現在「百鬼夜行シリーズ」と称されるもののうち、京極堂こと中禅寺秋彦を中心とした分厚いシリーズの処女作である。
 これ、信用ならない語り手というミステリの禁じ手を使っているのだが、語り手である「私」、小説家の関口巽がいかに胡乱な語り手なのかは冒頭に書かれていることに気づく。また冒頭で暫く続く関口と京極堂の談義は認識論とその周辺であり、しかも観測者問題に言及されると、このミステリの構造が暗示されていることに気づくのだ。
 関口は古書店「京極堂」を営みつつ神主の仕事もしている旧制高校の同級生のもとを訪ねるのだが、そこで、「二十箇月も身ごもっている女」の噂話を持ち込む。京極堂は答える、「この世には不思議なことなど何もないのだよ」。これは最近の流行語に翻訳すると「ボーッと生きてんじゃねえよ」かも知れぬ。
 会話の中で、その妊婦が学生時代の一級上の知人で、産婦人科の久遠寺医院に婿養子にはいった藤野牧朗、通称・藤牧の妻のことだということがわかる。そして牧朗は失踪しているというのだ。いやいやここは榎木津に要約してもらおう。「藤牧が婿養子に入った先で密室から失踪した、奧さんはそのとき妊娠三箇月で、失踪以来一年半も経つのにまだ赤ん坊は産まれない」。
 ウブメは、お産で死んだ女の無念を形象化した妖怪で、大陸のこかくちょう(姑獲鳥)という悪鬼と同一視されてしまったという。妖怪などいないのであるが、昔の人がある概念を形象化したものが妖怪なのである。

 パロディではなくて、これほどいろんな探偵の登場する作品は珍しいと思うが、中心になって捜査するのは語り手である小説家の関口なのだ。彼はいろんなタイプの探偵と行動を共にする。まずは捜査も推理もしない探偵・榎木津礼二郎(彼は京極堂と関口の一級上だ)と京極堂の妹で雑誌記者の敦子とともに、次に榎木津の幼なじみで、戦時中は関口の部下に当たる警視庁刑事・木場修太郎とともに。榎木津は他人の記憶が見えてしまうので、事件の見える部分は解決して早々に立ち去る。敦子は緻密に密室の状況を見聞する。親分肌の木場は動機という側面から切り込む。
 そして最後に京極堂が憑き物落としに出てくる。憑き物とは人間のとらわれである。因習だったり、思い込みだったり、プライドだったりいろいろあるわけだが。

レビュー投稿日
2019年6月9日
読了日
2019年6月9日
本棚登録日
2019年6月9日
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