もう記憶が定かではなくなっていたが、解説を見ると、本書はバリントン・ベイリーの初翻訳長編だったようで、『禅銃』なども翻訳はこのあと。ワイドスクリーンバロックなどといって、なんだあ大したことないじゃないかと思ったのは、短銃で恒星を破壊してしまうような『禅銃』の突拍子なさと比べると、『カエアンの聖衣』のアイディアはちょっとスケールが小さい気がしたのだ。
服を着ることによってその人の潜在能力が開化して別人のように力を発揮できるようになるというアイディア。そしてそのような服飾文明を発展させたカエアン人。物語はカエアン星系と対立するザイオード人の視点から描かれる。原題は「カエアンのガーメント」。ガーメント・バッグのあのガーメントであって、「聖衣」などという宗教がかった特別な意味はない。これは初訳のなごりであり、新訳の本書でもそれを踏襲している。問題となるカエアンのガーメントは伝説の服飾家フラッショナルの仕立てた5着のうちのひとつだが、見た目は単なる地味なスーツであり、それを手に入れたザイオードの服飾家ペデル・フォーバースはザイオード社会でのし上がっていく。
他方、カエアンとの戦端が開かれるまえの情報収集にカエアン星系に密かに調査にはいった文化人類学者の調査団一行が話のもうひとつの軸。人類が銀河に広がって千年、日本人の末裔ヤクザ坊主とソヴィエト・ロシア人の末裔が戦っている宙域を発見し、カエアン文明がこのソヴィエト・ロシア人の末裔からさらに発展したのではないかと推測する。
知性を持った線維というアイディアをアニメ『キルラキル』で使った脚本家のエッセイも巻末に。『ど根性ガエル』みたいな『キルラキル』の服はやはりアニメ的にわかりやすいが、ベイリーが知性を持った線維を考えたときにそれは喋る服ではない独特なアイディアが投入されている。
- 感想投稿日 : 2016年6月6日
- 読了日 : 2016年6月6日
- 本棚登録日 : 2016年4月29日
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