夫婦と5歳の子どもの家族。大雨に大地震が重なってダムが決壊し大災害が起こる。
ひとつの世界では妻が死に、それとそっくりなもうひとつのパラレルワールドでは夫が死ぬ。ところが息子はその二つの世界を同時に体験している。息子はどっちとも会話できるが、夫婦は双方をまるで息子だけに見える幽霊のように体験する。
という設定のショートショートを東日本大震災の、英語のチャリティ・アンソロジーに書いたそうなのだが、それを長編化したもの。
しかし小林泰三がそんな悲しくも愛おしい作品で終わるわけがない。
この息子と同様に二つの世界を同時に生きることになったもうひとりの男、それはとても悪い奴なのだが、それが登場する。彼はその境遇を利用して悪辣な金儲けをしているのだ。この境遇からいったいどのような悪事ができるのか、設定にプラスアルファはあるのだが、まずはちっとも思い浮かばなかった。
そしてそういう悪人が登場するならば、当然、上記の家族が目を付けられて、危機に陥るというストーリーはみえるのだが、悪人を撃退する方法はちっとも思い浮かばなかった。
やられました。でもどうだろう。「私の代表作となりうる作品である」と著者はいうが、『AΩ』『天獄と地国』『殺人鬼にまつわる備忘録』(『記憶破談者』解題)なんかのほうがすごい作品だと思う。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
サイエンス・フィクション
- 感想投稿日 : 2019年11月15日
- 読了日 : 2019年11月15日
- 本棚登録日 : 2019年11月15日
みんなの感想をみる