「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか

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レビュー : 69
著者 :
消息子さん フクシマ   読み終わった 

 ブラックな話です。眉を顰めて聞いてください。

 被災地では、雇用がなくて困っているという。そこで中央の資本と国家の補助で企業のプラントを建設することにする。津波で図らずも更地ができているから、そこに大きなプラントを作る。
 まずは建築業で雇用が創出される。そしてプラントが稼働したら、住民はそこで働くことになる。反対運動も起こるだろう。そこは金をばらまいて懐柔する。何しろ、プラントができれば出稼ぎしなくとも、家族とともに故郷に住むことができる。4人に1人くらいはプラントで雇われ、労働者を相手にした商売で潤う人も出てくる。プラントでは定期点検があり、数千人単位で季節労働者もはいってくるようになるので、地元はますます栄える。
 反対派は反対運動を続けるだろう。住民もプラント建設を手放しで歓迎しているわけでもないので、反対派の運動を見ると、変わり者だと思いつつも「がんばれよ」などと声をかけてみたりする。しかし、もはやプラントなくして生活は成り立たないので、プラントを通して社会貢献している地域や自分に誇りを持つようになる。

 本書は気鋭の社会学者の、「原子力ムラ」を通して、戦後日本の成長神話と地方の服従のメカニズムを明らかにしようという研究である。ここでいう「原子力ムラ」とは原発の立地する地域のことである。電力会社や行政の原子力部門をまとめた閉鎖的集団を原子力ムラとも称するが、本書で問題にするのは地方の在り方であり、それは戦前に遡る「ムラ」の在り方を継承しており、それは、3.11以降もなにも変わっていないと述べられる。
 福島原発が中心にすえられるのは、著者自身が福島県出身ということもあろうが、もっとも早期の原発のひとつであること、また当該地域が、反対なく建設成功(第一原発)、反対あるも建設成功(第二原発)、反対のため建設断念(浪江小高原発)と三様の様態がみられているということがある。研究は2006年から進められ、2011年1月に修士論文として提出されており、3.11に乗ってやっつけ仕事で書かれた本ではない。

 その「なにも変わっていない」という点について評者が敷衍してみたのが上述の「ブラックな話」である。中央から、あるいは「原子力ムラ」の外からみる限り、原発推進−反対というのは明確な対立軸だが、「原子力ムラ」の中からみると、そうではないということが重要な論点のひとつ。原発はいやいや「ムラ」に押しつけられたとはいえず、「ムラ」は原発をすすんで「抱擁」する。そして首都圏の電力生産を担うことに誇りすら覚える。
 双葉町の元町長は当選以前は原発反対派だったが、町長に選出されてから推進派に「転向」したという事実が述べられる。彼にとっての軸は愛郷であり、愛郷のもとでは原発推進−反対は対立軸ではなかったのである。歴代の福島県知事は地方の自律を目指そうとする「反中央」の立場から原発を推進したが、佐藤栄佐久知事は同じ「反中央」の立場で東電と対決姿勢を取らざるを得なくなった。しかし、「原子力ムラ」は原子力によって雇用を得、繁栄を続けるにはさらに原発を建設するしかないaddictionに陥っている。栄佐久知事のプルサーマル凍結にムラはむしろ戸惑うのであった。
 筆者は前近代的な要素を残しながら都会のように繁栄したいと望む「ムラ」の欲望と、成長を遂げつつ支配を徹底したい中央とのあいだに、県などの地方がメディエーターとして機能して原発が推進されたが、もはや地方の仲介は排除され、ムラが自動的・自発的に服従する支配の構図ができあがったと分析する。「補助金もらって潤っている」「原発を押しつけられて可哀想」といった推進派・反対派の言説は中央からみているという点で、同等だという。そうした硬直化した視点でみているかぎり、「希望に近づこうとすればするほど希望から遠ざかって行ってしまう隘路に、今そうである以上に、ますます填りこむことになるだろう」。

 上の「ブラックな話」の「プラント」には何も原発ばかりが挿入されるわけではない。過去には炭鉱だったり、軍需工場だったりしたわけであり、被災地のこれからとも関わってくる問題と思われる。本書の「フクシマ」は放射能によって蹂躙された土地の代名詞ではない。「中央」によって蹂躙された「ムラ」の代名詞なのである。

レビュー投稿日
2016年2月4日
読了日
2016年2月4日
本棚登録日
2016年2月4日
2
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