「結局、勝新太郎はどうしようもなくスターなんだ」――それがこの本を読んだ感想。
芸能の世界には、スターとしての資質や魅力に生まれつきあふれた人がたくさんいる。でも、勝新ほど、人生の端から端まで、徹底的にスターであり続けようとした人はいない。しかもそれは単なる見栄ではなく、「勝新太郎」というスターを愛し、あこがれる人たちのためだったというのが、この本を読んで感じたことだった。
正直、こんな人が近くにいたら、たまらない(笑)。
豪快で繊細、いい加減で几帳面。自分勝手な行動で人を振り回すのに、たまらなく気遣い屋で優しい……周囲に見せる姿の振り幅がとんでもなく大きい。一緒にいると、ものすごく面倒な目に遭うのに、ついつい大好きになってしまう……一番タチが悪いタイプですね。
勝新自身が女優にメイクをしたというくだりを読んでいて不思議に思ったのは、まったく見たことがないシーンなのに、その真剣な目や繊細な手つきが想像できるような気がしたこと。勝新の映画は数えるほどしか見たことがないけれど、それでもその姿が「絵」として強烈に印象に残っているんだろう。だから、「彼ならこう動く」というのが想像できるのかもしれない。
そう考えると、晩年の勝新が映画で活躍できなかったことが改めて残念だ。しかもその原因が皮肉なんだもの。
勝新が一番やりたかったのは映画を作ること。おそらく映画以外は、あまり興味がなかったんだと思う。だからこそ、映画以外のビジネスの話にはこだわりなく乗ってしまう。結果、抱えた借金が俳優活動の足かせになっていくんだよね。
映画を撮ったら撮ったで、演技も演出もこだわるスターだからこそ、監督とかみ合わない。映画にすべてを賭けているからこそのこだわりが、結果的に勝新自身を映画から遠ざけることになる。取りやめになったCMのエピソードなどを見ると、製作所時代の大監督たちよりも、孫くらい年が離れた、なんとなく飄々としている今時の監督たちの方が、もしかしたら上手く折り合いを付けられたかもしれないなんて思った。
本自体は、著者が勝新と過ごした日々を書いた後半になるほど面白い。著者自身、おそらくそんなに文章が上手な人ではないんだろう。前半は、彼が出会う前の勝新の話を取材ベースで書いているんだけれど、エピソードをただまとめた感が否めない。でも、著者自身が出会った勝新を書き出すあたりからは、俄然、筆の滑りが良くなる。特に勝新が病に倒れてからは、読みながら涙が出た。
それにしても、稀代のスターはその人生自体が演じた役に劣らぬくらいドラマチックなんだな。
- 感想投稿日 : 2012年4月9日
- 読了日 : 2012年3月20日
- 本棚登録日 : 2012年3月5日
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