きらきらひかる (新潮文庫)

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レビュー : 2187
著者 :
kaiteki61さん まじ最高   読み終わった 

すばらしいと思う!すげー!本質的で優れた恋愛小説だとおもう!マジで!

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アル中の女、「笑子」とゲイの男、「睦月」の結婚生活。
(ついでに笑子はやや躁鬱気味、睦月は潔癖)

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睦月は不誠実で汚い男。典型的な「男」だと思う。

なんとなく自分は睦月の気持ちが分かる気がする。

作中で睦月は清潔で善良で誠実な男として認識されいるけれど(だから内科医なのはかなりしっくりくる)、そして認識させられそうになるけれど、実は睦月はそうではないと思う。とんでもなく汚くて邪悪で不誠実で、そしてそれはもちろん俺と一緒な普通の男だと思う。

確かに作中で睦月は清潔で善良で誠実な振る舞いを数多く行っているけれど、例えばこれ。

「睦月。あなた自分が一時間半も拭掃除してるってことに気がついているの」
「指紋やよだれはどこにでも(中略)」
笑子は不思議そうな顔で僕をみる。
「でも、さっきからずっとよ。尋常じゃないわ」
 でも、さっきからずっとよ。尋常じゃないわ――。僕は胸の中で復唱する。
「僕と笑子は似たもの夫婦だね」

客観的に見て睦月普通に酷すぎだろ。

”自分は精神病だけど、尋常じゃないわけじゃない”と思っている自分の妻に対して”尋常じゃないのはあんただよ”と内心思っているってことなんだから。

睦月は自分が汚くて邪悪で不誠実な人間だということを自覚している。だから人前ではその裏返しなのだ。裏返していることを自覚しているかどうかは微妙なところだけれど、少なくとも完全な自覚はしていない。だから上記のような酷いことを理性で考えられる。そゆー現象はかなり心当たりがあって非常にリアル。

睦月は本当のこと、正しいことばかり主張しているけれども、彼は本当のことや正しいことのもつ殺傷力を知らない。っていうか知っているんだけど知らない振りをしている。そうすれば自分は傷つかないで済むから。自分は危険地帯に踏み込んだように見せかけて安全なところにいられるから。

睦月は自分が汚くて邪悪で不誠実な人間だということを自覚している。だからこそ、その罪悪感の裏返しで、笑子の前で、というか人前では清潔で善良で誠実な人間であろうと涙ぐましい努力をしているんだと思う。

そういう意味で睦月は、男性が本質的に汚くて邪悪で不誠実な人間だと暴かれる被告人であると同時に、それをなんとかして克服しようとする希望の光でもあるかもしれない。

そうだとしたら誰の希望なんだろう。男性の希望であり、女性の希望でもある気がする。両方がそれぞれ希望している。

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そして笑子もまた典型的。ゆえに本質をついている。

多角的で躁鬱で頑固で脈絡なしで非論理的で…まさに女性性そのものじゃないかと思う。
(って書いたら女の人に怒られそう。でも別に悪口で書いているわけじゃない)
(さらに言えば、紺の木への飲料投与が彼女の性欲発散に思えなくもないんだけど、そうだとしたらその性欲発散方法もまた女性的な気が…しないでもない)

俺に笑子は理解できなかったけれども共感せずにはいられなかったし、どうしても笑子を心から応援したくなる。そんな魅力が笑子にはあった。

それは笑子が、清潔で善良で誠実だからだと思う、

笑子は一見、清潔で善良で誠実な睦月と対比させられた、めちゃくちゃでぐちゃぐちゃでどうにも手が付けられない悪夢のようなわがまま女のように見えるけれども、そうではない。
笑子は、自分の属している世界に関係する人物全てが幸福になるために、常に四苦八苦している愛すべき人間だと思う。だから睦月よりも遥かに清潔で善良で誠実な人間だ。

だって彼女は作中で何度も言っている。
”私は睦月と二人の生活を守りたいだけなのだ。”

(二人の生活を、と言っているのにそれ以上の守備範囲を誇っているのが素敵なところ)

この笑子の汚さと邪悪さと不誠実さの裏に隠れた清潔さと善良さと誠実さこそが女性性の本質なのかもしれないなと気づかされた。やるじゃん女の人。

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こんな風に睦月と笑子をよく見てみると、たしかに強烈でかなりイレギュラーな要素ばかりのシチュエーションだけれども、強烈でイレギュラーな要素によって、日常における恋愛のイレギュラーな部分をぶっ飛ばし、恋愛の本質的なところを彫りだすことができたんじゃないかと思う。純粋な男性性の睦月と純粋な女性性の笑子だからこそ。
そして本質的な弱さを持った人物たちだから愛おしい。
(読みが全然単純すぎる気もするけど)

びっくりするくらいよかった。俺の中では島田雅彦の彼岸先生並み。これは読み込みたい!

レビュー投稿日
2010年6月8日
読了日
2010年6月8日
本棚登録日
2010年6月8日
3
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