こころ (岩波文庫)

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著者 :
kakeruotokoさん  未設定  読み終わった 

まず、先生がなかなか秘密を告白しなかったことについて考えてみた。
「私」は、「先生」に出会い先生宅に通うようになってから、しきりに「先生」から何かを学ぼうとしている。そのため、「私」は「先生」の過去をも教訓として学びたく思っている。しかし、「先生」からすれば、誰にも語りたくない過去であり、この過去について「私」に話しても何も与える価値がなく、むしろ軽蔑され、また告白しても自分の罪意識は減らないと思い拒んでいたのではないか。
また告白をするには自らの死という意識がどこか片隅にあったのではないかと僕は考えた。
この部分は<夏目漱石のこころについて読みなおす>という本の作者であおる水川隆夫さんは次のように述べている。
【先生は昔犯した自らの罪について「私」に告白したところでこの罪意識は消えないと考えている。また告白は必ずしも告白した者が誠実である事を意味しないのである。告白による痛恨の真剣さを保障し他人に「教訓」を与えることを可能にするには、告白者の死しかないのではないかと思われる。】
このことにより、僕が考えたことは間違ってなかったことが裏付けられる。
また、<夏目漱石のこころについて読みなおす>を読んで、僕が「こころ」を読んだだけでは気づかなかった事も多く書かれていたことに気づいた。
例えば、「私」が父の病気のため故郷に帰る前に「先生」の家へやってくる場面だ。【先生の家には木犀の一株がある。その木犀は黒ずんだ葉に被われている梢を見て、来るべき秋の花と香を想い浮かべていた。すると先生宅の電灯がふっと消えた。】という文がある。これは、ある暗示を示しているというのだ。この黒ずんだ木犀は先生の暗い過去の秘密を表わしている。その木犀は秋になると、花を咲かせ、独特の香りを放つ。その香りは「先生」の感動的な死を表わしているのではないか。また「ふっと消えた電灯」は先生の暗示を表わしているのではないかというのだ。
僕が、この場面の文章だけでは到底このようなことを読みとることができなく普通に流して読んでいたのに対し、<夏目漱石のこころについて読みなおす>の作者水川隆夫さんは読み取り理解していた。
このように、僕が全く注目していなっかった文や段落について<夏目漱石のこころについて読みなおす>という本は細かく解説していた。この本を読むことにより、「こころ」だけでは気づかない事にも気付けたため読んで大変によかったと思う。
また夏目漱石の「こころ」という本自体も大変に面白く、後半の先生の過去について告白している場面ではこの物語に吸い込まれるように一気に読める。また「先生」の苦悩や文章中にまれに出てくる「先生」という人の本当の人柄は、読んでいて非常に考えさせられる。例えば「人間を愛し得る人、愛せずにはいられない人、それでいて自分の懐に入ろうとするものを、手を広げて抱きしめる事の出来ない人―それが先生であった」である。これは、「先生」は本当のところ心のなかでは人に対し愛情があるのだが、Kに対する罪意識から表面には出せないという葛藤と長年戦っている様子が表わされた一文ではないかと思うのである。
ここでは到底書ききれないほどの素晴らしい本なので、ぜひ「こころ」と「夏目漱石のこころについて読みなおす」の2冊を読んでみて下さい。

レビュー投稿日
2010年4月6日
読了日
2010年4月6日
本棚登録日
2010年4月6日
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