この『雪蟷螂』という作品は、
同じ作者の書く「人喰いシリーズ」と云われるものの
第三弾、最終章に当たるらしい。
読み終えいざレビューを書こうとして初めてその事を知ったけれど、
前の2作を読まないと分からないという事は無かったように思う。
(他の方のレビューを拝見すると、これが最初で良かったようにも思える)
「想い人を喰らう」と云われる一族と、
その一族と長い間敵対していた一族との政略結婚。
あらすじに記載された「想い人を喰らう」という言葉だけで、
によによと期待を膨らませてしまって、
気づけば本屋のレジの前にいそいそと並んでしまっていた。
「想い人を喰らう」。
異常とも言える深すぎる愛の形の終演には、
どうしても死がまとわりついて離れない。
「死が二人を分かつまで」とは愛の誓いに使い古された言葉、
けれど「想い人を喰らう」愛は、同時に死のおとないがある。
この作品の舞台は、極寒の凍土。
作品全体に貫かれる雪氷の厳しさと白さが、
この作品のテーマである「想い人を喰らう」、
儚くも美しい、狂おしいほどの愛を、よりいっそうに引き立てる。
深すぎる愛は異常性もあって恐ろしい、
でも時に、憧憬の念すら呼び起こすのは何故だろう。
死にものぐるいの、死すら厭わぬ程の激情。
そういったものに身を焦がすことが非現実的に思われてしまう、
そんな世の中だからこそ、逆に憧れてしまうのかも知れない。
(以下余談)
テーマも、それが描かれる舞台の選定も、文章の質も
ものすごく好みで、文句なしで★5を付けたいところ。
ここで★4にしたのは、「想い人を喰らう」というテーマが、
主人公ではなく脇役で語られたことを起因とする。
激情に狂う主人公を見たかった。
- 感想投稿日 : 2009年8月15日
- 本棚登録日 : 2009年8月15日
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