めぐり逢ひて見しやそれとも分かぬ間に雲隠れにし夜半【よは】の月影
紫 式部
「これ一冊で『源氏物語』のストーリーが判ります」ということばに惹かれ、覆面作家・鯨統一郎の小説「タイムスリップ紫式部」を手に取った。
ミステリーで、女子高生タイムスリップシリーズの第7弾。2人の女子高生が、古典の授業中、香【こう】に誘われるかのように平安時代にタイムスリップ。心は現代の女子高生のまま、1人は紫式部、もう1人は清少納言の身体となってしまう。
戸惑う2人に、時の権力者・藤原道長の突然の死が知らされる。謎めいた訃報、もしも暗殺ならば、いったいその犯人は?
文学史ではライバルとされる紫式部と清少納言だが、本書では親友同士という設定だ。謎解きにも仲良く加わる姿に、周囲は驚き、疑いの目さえ向ける。
平安貴族の生活史と、「源氏物語」の内容も随所で紹介されるので、なるほど、受験生には親しみやすい入門書と言えそうだ。
ただし、入門書を超えた内容も盛り込まれている。ストーリーの核となっているのは、屈折した愛が描かれた「源氏物語」の新たな解釈だ。また、藤原道長によって廃棄されたと言われる「源氏物語」幻の巻をめぐるエピソードも巧みに織り込まれ、源氏研究の最前線も伝えてくれている。
掲出歌は、百人一首にも採られた、紫式部の代表歌。本書では、「めぐり逢ひて」の相手は恋人ではなく、同性の友人という新解釈が示されている。ほかにも平安期の代表歌が現代語訳とともに挿入され、目配りが良い。シリーズ全巻、読んでみたくなる。
(2013年3月17日掲載)
- 感想投稿日 : 2013年3月17日
- 読了日 : 2013年3月17日
- 本棚登録日 : 2013年3月17日
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