妻を失う 離別作品集 (講談社文芸文庫)

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田中綾さん  未設定  読み終わった 

袖のところ一すじ青きしまを織りてあてなりし人今はなしはや
 山崎 斌【あきら】

 作者は、「草木染」の名付け親として知られる染織家。掲出歌の「あて」は、優美なという意味で、染織も上品にこなした「人」の病死を悼んだ歌である。

 その「人」とは、高村光太郎の妻智恵子。光太郎の創作活動を支えた妻の存在は、詩集「智恵子抄」等で知られている。だが、同じ造形美術家であった智恵子の時間を、家事労働にあてさせてしまったことも知られているだろう。もちろん、光太郎にも自責の念があり、悔やむ痛切な詩もある。

 そんな光太郎による「智恵子の半生」はじめ、妻を失った夫による手記・小説のアンソロジー「妻を失う」を読んだ。有島武郎「小さき者へ」、江藤淳「妻と私」など11編が収められているが、落涙せずにはいられなかったのが、原民喜の「死のなかの風景」である。

 原民喜は、「水ヲ下サイ/アア 水ヲ下サイ」と、広島での原子爆弾投下の惨状をつづった詩「原爆小景」の作者。なぜ、彼はその無念の死者たちを書き続けたのか。

 若い一時期、孤独に陥り自殺未遂もした民喜だったが、1933年、同じ広島出身の女性との結婚で、生きる自信を得て、意欲的に小説を発表するようになった。
千葉に居を構え、安定した生活のさなか、妻の病死。その痛手で、郷里広島に疎開し、運命の8月6日を迎えたのだ。

「彼」という三人称で、妻の葬儀を客観的に記した「死のなかの風景」は、他者の口で語るしかなかった深い悲しみの叙述と思う。代表作「夏の花」も読み返したい。

(2015年3月15日掲載)

レビュー投稿日
2015年3月15日
読了日
2015年3月15日
本棚登録日
2015年3月15日
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