湯川秀樹歌文集 (講談社文芸文庫)

  • 講談社 (2016年10月8日発売)
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ななかまどあかき実【み】枝にみつるとき柳葉魚【ししゃも】の味のことによろしく
 湯川秀樹

 日本人で初めてノーベル賞(物理学賞)を受賞した湯川秀樹は、和歌をこよなく愛していた。細川光洋選による「湯川秀樹歌文集」では、理論物理学者の心の内に、孤独と、混沌とした世界とが共存していたことが丁寧に解説されている。

 1907年(明治40年)、東京生まれ。幼児期に京都に移り、中学時代に西行の歌集「山家集」と出合い、その抽象的な言語世界に没頭したという。

 近代的、合理的な科学を専門としながら、その対極にあるような非論理的で不確定なものにも理解があり、むしろそれが、想像力の源泉であったそうだ。歌を作ることを「安息所」にたとえたエッセーも収録されており、説得力がある。

 71年、京都大の退官記念として刊行された歌集「深山木【みやまぎ】」(私家版)も本書の読みどころである。少年時代の回想歌や、旅行詠、戦時下の弟の応召の歌のほか、次の歌は、49年、ノーベル賞授賞式のためにストックホルムを訪れた折の感慨。

 忘れめや海の彼方の同胞【はらから】はあすのたつきに今日もわづらふ

 まだ日本は、敗戦わずか数年後であった。自分は晴れの式典に立っているが、日々の「たつき(生計)」に苦労する故国の人々への思いやりも歌われていたのである。

 3度にわたる北海道訪問の連作もあり、掲出歌も、その中のもの。釧路、層雲峡、小樽、札幌などが順に歌われているので、その旅情を私たちも追体験したい。
(2016年11月13日掲載)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2016年11月13日
読了日 : 2016年11月13日
本棚登録日 : 2016年11月13日

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