石原吉郎 - シベリア抑留詩人の生と詩

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田中綾さん  未設定  読み終わった 

今生【こんじやう】の水面【みなも】を垂りて相逢はず藤は他界を逆向きて立つ
 石原吉郎

 昨年は、詩人石原吉郎の生誕100年にあたる年だった。それに合わせて刊行された細見和之の著書は、従来の石原論を揺さぶる、新たな読みの可能性を提示している。

 過酷なシベリア抑留体験をエッセーに多くつづった石原ゆえ、読者は「石原=シベリア抑留詩人」と規定し、むしろ過剰にその体験を背負わせすぎてきたようだ、と細見は指摘する。なるほど、シベリアでの「実体験」と、帰国後10数年を経て書き始めたエッセー、つまり「追体験」とを同じ質のものととらえては、読み誤るところも少なくないのだろう。

 別な見方を提案する細見は、詩の語を注視し、年譜や詩で用いられた漢語を丁寧に検証している。また、ユーモアあふれる詩にも言及し、意外な側面も見いだしている。

 さて、石原は晩年に歌集「北鎌倉」を刊行した。過度の飲酒で緊急入院し、点滴を受けながらの病中詠であった。

 石膏のごとくあらずばこの地上になんぢの位置はつひにあらざる

「石膏」のように身動きのできない病床の姿は、身体的拘束そのものである。けれども、その拘束に抗おうという祈りのようなものが詩人の「位置」だったのか。

 掲出歌は、藤の花房が垂れて水たまりに映っている光景。水面に映ることで、藤は「逆向き」に上を見上げる構図となる。すでに死を意識し、心身は下り坂にあるはずが、この歌では精神が上向きに覚醒しており、はっとさせられる。1977年、自宅で入浴中に急死。享年62。

(2016年3月20日掲載)

レビュー投稿日
2016年3月20日
読了日
2016年3月20日
本棚登録日
2016年3月20日
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