プロレタリア短歌 (コレクション日本歌人選)

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  • 笠間書院 (2019年1月25日発売)
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娘の賃金が一家の暮【くら】しを背負つてる美談だらけだ俺等の村は 
 佐々木妙二
 
 今日は、女児の幸せを願う桃の節句の日。その願いとは対極にあるような、昭和初年代の「村」の短歌である。

 作者は秋田県生まれ、「アララギ」などを経て、昭和初期にプロレタリア歌人同盟に参加したという。

 この歌は、模範的な年少労働者として顕彰された「娘」がモデルのようだが、「美談」が流布することで、この女性は今後も労苦に耐えなければならないのだろう。また、他の家庭でも「美談」が再生産されるという、負の可能性も見すえた歌である。

 賃金労働者が直面する問題を、まさに「問題化」させることがプロレタリア短歌運動の目的の一つであったが、兵役に関しても、次のような歌が作られていた。

  見ろ、誰もがびくびくしながら並んでゐるみんな合格を怖れてゐるんだ
 藤野武郎

 来歴不詳の作者。この「合格」は、徴兵検査に際してのものである。一家の担い手である成人男性の入営は、困窮家庭では「怖れ」るべきものという本音が見える。

 これらの短歌は、笠間書院「コレクション日本歌人選」の最新刊、「プロレタリア短歌」から引用した。著者の松澤俊二は、プロレタリア短歌の定義とともに、それらが「歌わなかったもの」に着目している。自然の美しさ、恋愛、そして、戦争を讃える発想は歌われなかったというのだ。プロレタリア短歌運動自体は短期間で終わったが、その意義は、今こそ確認しておきたい。
(2019年3月3日掲載)

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感想投稿日 : 2019年3月3日
読了日 : 2019年3月3日
本棚登録日 : 2019年3月3日

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