八本脚の蝶 (河出文庫)

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本棚登録 : 397
レビュー : 25
著者 :
田中綾さん  未設定  読み終わった 

骨くらい折っていいのにその指で本の頁を捲る手つきで
 二階堂奥歯

 2003年ころインターネット上で注目を集めたサイト「八本脚の蝶」が、文庫本になった。25歳で自ら死を選んだ女性編集者の、約2年の日記である。

 1977年生まれ。国書刊行会を経て、毎日新聞社で書籍の編集にあたっていた。たいへんな読者家で、作家たちからも、その知性あふれる会話で一目置かれていたという。

 膨大な読書量は、日記に引用された古今東西の書物からもうかがえる。思想書はじめ、幻想文学、詩集、聖書、さらに漫画や性風俗雑誌のバックナンバーまで、幅が広い。引用部分を読むだけでも、彼女の読書への愛、知への渇望を追うことができる。

 加えて、独自の審美眼が披露されているのが、詳細な購買の記録である。具体的な店名も挙げながら、お気に入りのファッションブランドの衣類、香水、話題のコスメグッズなど、買ったものが列挙されている。「物欲乙女」を自称したくだりもあるほどだ。

 けれども、知性と美意識を備えたこの若い女性には、「物欲」では決して満たされない精神的な領域があったのだろう。

 その満たされない何かに、もしも少しだけ触れようとするのなら、フランスの哲学者シモーヌ・ヴェイユの「重力と恩寵」が5回引用された点に着目することもできそうだ。労働哲学や人生論を書き残しつつ、30代で亡くなったシモーヌ。両者の魂の距離は、近い。
(2020年3月8日掲載)

レビュー投稿日
2020年3月8日
読了日
2020年3月8日
本棚登録日
2020年3月8日
8
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