※本稿は、「北海道新聞」日曜版2023年4月9日付のコラム「書棚から歌を」の全文です。
・目覚めつつ過去の時代の夢たちを活かして前へ進む哲学
山口拓夢
田畑ブックレットの「短歌で読む」シリーズ4冊目は、「短歌で読むベンヤミン」。これまでの「哲学史」「ユング」「宗教学」に続いて山口氏が選んだのは、文化哲学、芸術批評の大家であった。
ヴァルター・ベンヤミンは、1892年、ベルリンのユダヤ人家庭に生まれた。著作に「ドイツ悲劇の根源」「暴力批判論」「複製技術時代の芸術」などがある。本書はそれらの解説に加え、最終章で、未完に終わった「パサージュ論」に注目している。
パサージュとは、屋根付きのショッピングモールの意味。そこを気の向くままに歩む「遊歩者」の視線で、失われた幸福な過去を取り戻そうとするベンヤミンの試みは、プルーストの長編小説「失われた時を求めて」と同様のイメージでもある。
その遊歩者の知性こそが、ファシズムに対抗して自身の夢を復元しうる、ベンヤミンなりの方法であったことが鮮やかに解き明かされ、感銘を受ける。全体主義との戦い方が、独特な発想で示されていたのだ。
・ファシズムの脅威の果ての死の床で脳裏に浮かぶ革命の夢
しかしながら、1940年、ナチス・ドイツから逃れて亡命を試みるもかなわず、モルヒネを大量に服用して死去。享年48。
遊歩者の視線は、全体主義にとらわれそうな今日こそ必要なものではないだろうか。
◇今週の一冊 山口拓夢著「短歌で読むベンヤミン」(田畑書店、2023年)
- 感想投稿日 : 2023年4月9日
- 読了日 : 2023年4月9日
- 本棚登録日 : 2023年4月9日
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