ショッキングピンクの鮮やかな表紙に、黒字で「Born after 1970 現代短歌日本代表」というサブタイトル。思わず手に取りたくなる本書は、現代短歌の最前線に立つ1970年生以降の40人を紹介した、短歌アンソロジーである。
編んだのは、自身こそ本書に収められるべき最前線歌人の、山田航。83年生まれ、札幌市在住。実作とともに、短歌史を俯瞰する評論の書き手でもあり、その選歌眼は信頼に足る。
収録の40人の多くは、90年代の穂村弘、俵万智らに影響を受けた人々でもあり、基本的に口語で短歌を作っている。そのため、口語がカバーする幅広い歌材と、口語ゆえの浸透力が、持ち味ともいえる。北海道在住の歌人を例にしよう。登別市在住の松木秀と、小樽市在住で、小説家としても活躍する雪舟えま。
アメリカのようだな水戸のご老公内政干渉しては立ち去る
松木 秀
うちで一番いいお茶飲んでおしっこして暖かくして面接ゆきな
雪舟えま
風刺の利いた松木作と、同居の男性の職探しをあたたかく見守る雪舟作。矛盾に満ちた国際政治も、生活者の細部の機微も、口語短歌はしなやかに表現でき、かつ、あらゆる読者を拒まない。
解説には、「学校」「地方都市」「郊外」といったキーワードも盛り込まれ、現代社会が照射されている。
3番線快速電車が通過します理解できない人は下がって
中澤 系
胃のなかでくだもの死んでしまったら、人ってときに墓なんですね
笹井宏之
―夭折した2氏も前線の歌人として編まれている。せつないが、作品は残り、読み継がれてゆくのだ。若き死者たちとともに生き、歌う「宣言」の書でもある。
(2016年2月7日 北海道新聞「ほっかいどう」の本欄掲載)
- 感想投稿日 : 2016年2月7日
- 読了日 : 2016年2月7日
- 本棚登録日 : 2016年2月7日
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