片山廣子全歌集

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田中綾さん  未設定  読み終わった 

一つの夢みたされて眠る人の如くけふの入日のしづかなる色
  片山廣子

 書庫にこもると、時に目の覚めるような事実に出合う。たとえば、歌誌「心の花」の大正期のものをめくっていると―。
 おや、芥川龍之介がペンネーム「柳川隆之介」で短歌を発表している。
 おや、夢野久作まで「杉山萌円」の名で短歌を発表している。怪奇幻想小説「ドグラ・マグラ」を発表する以前、故郷福岡で、短歌会に参加していたのだ。
 しかも、この2人は、ある女性と縁があった。歌人で翻訳家の片山廣子である。
 1878年(明治11年)、東京生まれ。外交官の父のもと、恵まれた環境で育ち、高等教育で英語力も身につけた。その気品あふれる美しさは、堀辰雄の小説「聖家族」にも描かれている。
 北海道とも縁がある。片山廣子の娘の夫は、山田秀三。アイヌ語地名の研究で知られ、北海道文化賞を受賞した人物でもある。
 さて、片山廣子は、翻訳家「松村みね子」として活躍したが、長く関わった短歌はさほど注目されてはこなかった。次の歌は、1916年の歌集「翡翠【かわせみ】」のもの。夢野久作も書評で引用した歌だ。

  生くる我とゆめみる我と手をつなぎ歩み疲れぬ倒れて死なむ

 女性ゆえに才能を発揮する場が限られ、「歩み疲れ」た折々もあったのだ。
 多くの手紙を交わした芥川が自死し、戦時中には息子を病で失った。親しい人々に先立たれ、戦後、生活のために文筆業を再開。掲出歌の境地に至るまでの、長い時間思われる。57年に死去。享年79。

(2013年2月10日掲載)

レビュー投稿日
2013年2月10日
読了日
2013年2月10日
本棚登録日
2013年2月10日
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