※本稿は「北海道新聞」日曜版2025年2月2日付のコラム「書棚から歌を」の全文です。
・年々に滅びて且つは鮮【あたら】しき花の原型はわがうちにあり
中城ふみ子
明治以降の近代短歌では、動詞・助動詞に作者の個性が現れ、「サラダ記念日」など固有名詞の時代となった1980年代後半以降は、名詞の選択が注目された。そんな中、形容詞・形容動詞に注目した1000首アンソロジーが登場し、新たな味わい方を示してくれている。
形容詞・形容動詞は事物の性質や状態などを表し、色彩や感情、感覚などを述べるときに使われている。
たとえば掲出歌では「鮮しき」が形容詞。30代の若さで病没した女性だが、年ごとに再生する命の原型、魂の原型の鮮度を誇ることで、闘病への決意をみずからに言い聞かせていたようだ。
日常風景も、言葉の選択一つで彩りが変わる。次の歌は「軽やかに」が形容動詞。
・卵入り納豆ごはんかき込めば箸はかなしく軽やかに鳴る
濱松哲朗
「卵入り納豆ごはん」を歌語にするアイデアも個性的だが、それを混ぜる「箸」の音を聞き逃さない聴力が持ち味である。
・ホチキスで今日と明日を繋ぎとめ涙ぐましく笑うのでした
森本平
「涙ぐましく」が形容詞。時間を「ホチキス」でつなぐなど不可能だが、綱渡りのように明日も生き抜く生活者のほろ苦い決意が、泣き笑いの表情で迫ってくる。感情の機微をとらえる鑑賞眼も鍛えていきたい。
(2025年2月2日掲載)
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- 感想投稿日 : 2025年2月2日
- 読了日 : 2025年2月2日
- 本棚登録日 : 2025年2月2日
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