煙か土か食い物 (講談社文庫)

3.79
  • (458)
  • (446)
  • (623)
  • (67)
  • (12)
本棚登録 : 3165
レビュー : 557
著者 :
kansasさん  未設定  読み終わった 

「煙か土か食い物」
ヘイヘイヘイ、復讐は俺に任せろマザファッカー!第19回メフィスト賞受賞作。


この小説の特徴は、何と言っても破格のスピード感(妙なリズム)がダダ漏れな文体・文圧です。ヘイヘイヘイな意気揚々なリズム感が半端なく、これにやられて途中リタイアしてしまう読者もいると思います。冒頭は、以下。


<blockquote>
サンディエゴにはおよそ三百万人の市民が住んでいるが、そいつらがどういうわけだかいろんな怪我や病気を背負い込んでホッジ病院にやってくるから、ERにいる俺は馬車馬三頭分くらいハードに働いてそいつらを決められたところに追いやる。チャッチャッチャッ一丁上がり。チャッチャッチャッもう一丁。やることもリズムも板前の仕事に似ている。板前と違うのは奴らが切り開いたり切り刻んだりするだけのところを、俺達は最終的に全部元通り縫い合わせてしまうというところだ。
</blockquote>


はい。どうでしょうか。主人公"腕利きの救命外科医 奈津川四郎"がどんな奴かをさらっとリズムに乗って説明しているくだりですが、私はこのくだりから四郎=日本人っていう結びつきがイマイチ出来ませんでした。こういう文体は、アメリカ小説で見る事が多かったのが原因なのですが、加えて妙にぶっ飛んでいるんですよね。なんか物語に入りきれない。こんな文体が、ずっと続きますw


ただ、この文体がつらつら続くだけだと、恐らく私はドロップアウトしていたこと間違いなしでしたが、展開にスピード感がある為、なんとか読んでいけました。


連続主婦殴打生き埋め事件の被害者に母親が含まれたことから、復讐の為に独自で動く四郎。警察がホイホイ四郎に協力したり、帰省して直ぐに同級ルパンに遭遇したり、警察と検事に同級がいたりと色々強引な所もあるお陰で、どんどん進んでいきます。また、四郎に降りかかるアクシデントやイベントもバシバシ発生するため、怒涛のラップみたいになってます。


1番不思議なのは、四郎の推理です。もはや思考のショートカットが凄い。天才の域に達しており、この強引な設定に対して首を捻る読者が出てきても仕方ないですね。と、この小説には色々強引に見える所がありますが、その強引さがスピード感溢れる作品の完成に一役買ってるのは間違いなし。


スピード感に並び、目立つのは暴力性です。四郎の家族には愛より暴力があり、小説のいたるところに暴力があります。ただその暴力性は、家族愛と密接に絡んでおり、「人は死んでからも生きた証を色々な形で残す」「家族は生きてるうちに、そして死んでからも引き付け合う」など重要なテーマに触れていきます。特に、暴力しかないような二郎と丸雄、憎み毛嫌いしていた丸雄から見えた愛情等から人間の在り方を問う所は、冒頭のイメージだった"訳わからない感"を消し去るのには十分でした。


暴力的でめちゃくちゃではあるが、実は人間、特に愛に付いて触れているぶっとんだ小説です。

レビュー投稿日
2017年1月18日
読了日
2017年1月18日
本棚登録日
2017年1月18日
1
ツイートする
このエントリーをはてなブックマークに追加

『煙か土か食い物 (講談社文庫)』のレビューをもっとみる

『煙か土か食い物 (講談社文庫)』のレビューへのコメント

まだコメントはありません。

コメントをする場合は、ログインしてください。

『煙か土か食い物 (講談社文庫)』にkansasさんがつけたタグ

いいね!してくれた人

ツイートする